作曲家別アニメサントラ紹介-13

<最初に>
アニメサントラでも、やっぱりOVAとかCSだと認知されにくいのかなぁ…と、思う事例を2つあげておきます。

’ギャラクシーエンジェル’は、最初にCSとOVAで第1シリーズが2001年頃発表されました。その後TVO(テレビ大阪)-TX系で第2シリーズが地上波で発表されたのですが、劇伴音楽としてはほとんど第2シリーズでは曲が追加されていないんです。(若干のアレンジ曲とかが追加されたんですが)曲そのものはアニメ作品としての使われ方も含めて変わっていないんですが、他の番組のBGとして比較的使われるようになったのは、2002年3月頃から。やはり、地上波での放送開始後に利用が目立つ形だったんです。

同じような展開として、’魔法使いTai!’があります。こちらは、当初OVAとして制作され、その後BSのWOWOWノンスクランブルで放送される形でした。劇伴音楽は、WOWOW版で新たなキャラクターの追加による曲の追加があっただけで、これまたほとんど変わらないというものでした。でも、WOWOWでの放送以降で他番組での利用が増加したという経過をたどっています。

このようにOVAやCSでのアニメ作品のサントラは、それほどたくさんの番組での利用はされないようです。では、BSデジタル放送はどうかというと、(そもそも単独でのアニメ番組が少ないということもありますが)’まほろまてぃっく’という例が存在していることからも、BSアナログと同様に考えて良さそうです。

アニメサントラが他の番組で利用されるには、やはりそれを活用する人に認知させる必要があるようです。定期的に放送局や番組制作会社では効果音などに利用できるCDを購入してはいるようですが、いちいちCDを聴いて確認するよりも動いている映像とあわせた形の実例を見た方が選択しやすいこともあるんでしょう。そうすると、お手軽にチェックできる地上波やBSでのアニメ番組のものが多くなるのは、何となく分かるような気がします。

(初出 2002/08/30)
 
 
88七瀬光 89 岩崎琢 90 斎藤恒芳(朝霧の巫女1) 91 大谷幸 92 菅野よう子 93 ショーロ・クラブ
94 斉藤恒芳(朝霧の巫女2) 95 西田マサラ 96 羽毛田丈史 97 ダブルオーツ(安部純・武藤星児)・増田俊郎 98 川井憲次 99 根岸貴幸
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第88回 七瀬光さん
(初出:2002/09/24)

紹介するサントラは、

ぴたテン サウンドトラック「幸せ音楽会」Vol.1 (Lantis LACA-5114)

作品としては、コミカルにストーリーが転がっているという印象でして、それでも品よく落ち着いた話もあるというものですから、サントラもそれに呼応したような感じになっているようです。

これまでは、どちらかというと打ち込み形のリズミカルな音楽を中心に七瀬さんのサントラは構成されていた印象があるのですが、今回のぴたテンではストリングスやパーカッション・アコーディオンなどなどすべて生演奏で作られたそうです。
人が奏でる楽器というものは、ある種のあいまいさという部分を持つようでして、それがシンセサイザーなどに代表されるプログラムされた音との差異をもち、暖かさとか柔らかさといったものを音楽の属性として持つようです。そうはいっても、何でもかんでもそういったアコースティックな手法を適用すればいいというわけでなく、そういった素材に出会えるということが重要であるんです。

ぴたテンは、そもそも天使と悪魔が出てくる話なのではあるのですが、天使らしくない天使に悪魔らしくない悪魔、それと小学生との学校を中心とした設定です。そのため、いろんなことは起こりますけど、日常描写をメインとした作品なんです。そうはいっても、画面上では突拍子ないことが起こっているのですが、柔らかな映像と音楽の印象によってやさしく落ち着いたものとして感じられています。
そういうこともあってでしょうか。他番組での利用が発売後かなり早くから聞こえるようになっています。

個人的にも、打ち込みでなくアコースティックな音楽でのサントラの仕事を七瀬さんで聴いてみたかったわけですが、今回のサントラでそれがかなったということで素直に喜んでいたりします。

第89回 岩崎琢さん
(初出:2002/11/11)

紹介するサントラは、

ウィッチハンターロビン ORIGINAL SOUND SCORE 1(ビクターエンタテインメント VICL-60931)

過去に「今、そこにいる僕」で紹介したときにも述べたように、ミニマム音楽的な要素を持っていたり、アコースティックな楽器を使ったシンプルな旋律という部分は、今回のアルバムでもある程度あります。ただ、それよりも作品が持つサスペンスタッチの部分があるため、奥行きのようなものが加わったという感じでしょうか。具体的には、以前に比べ楽器のバリエーションが増えたというものがあたりますが、それ以外にも楽曲そのもののトーンが複数の主題を絡めていくような部分もあたるのかと思います。

このサントラのブックレットにある岩崎さんのインタビューに、
『るろうに剣心(追憶編のこと)』も『Witch Hunter ロビン』も、基本的にメインに出しているのはオケなんだけれども、ちゃんと裏でシンセのパーカッションが入っているんですよ。
と、いっているんですね。さて、気づける人がどれだけいるものかなぁ…

そりゃそうと、
音楽は映像のように時間を止めて認識することができるものではなく、時間を経過させて聴かなければ認識できないということから、より時間の流れ、ストーリーの流れに重きを置く、といったコメントには「なるほど」と感心しました。映像表現のなかでの時間経過やその映像以外のストーリー・背景の「流れ」のようなものを、音楽というのは表現するというとも解釈しましたが、サントラ持つ重要な役割の一つを示していると思いました。

あと、
劇判(サウンドトラック)というのは、ポピュラリティと芸術…ある種自分の興味の追求とが一番融合する場所だという感じがします。
という風に、このフィールドを気に入ってくれて、質の高い楽しめる音楽というのを提供してくれるのは、素直に嬉しいですね。こういった「何でもあり」という部分が表現のバラエティーを広げていき、一つのジャンルで閉塞しがちな音楽に変化を加えることにつながると思うんですけど。

なんかサントラ論の方に話が行ってしまいましたが…作品とサントラとの関係について最後に述べておきましょう。
岩崎さんのこれまでのサントラは、どちらかというと作品の持つ世界観を忠実に再現していて、結構はっきりとした音楽としてのトーンが出ているんです。そのため、たくさんの曲が収録されていても、あまり差異のようなものを見いだすことが難しい感じがしたんです。曲としてのクオリティーはあり、該当作品の劇判としてはしっくり来るのですが、サントラとしてCDで通して聴くと面白味に多少欠ける部分があった気がします。
今回の作品は映像も含めて行間というのか作品の世界観自体ある程度の余裕のものがあるため、サントラとしての楽曲自体あいまいで作曲側の意図的な遊びなどを許容できる部分があったのではないかと思います。このため、たぶん作品を知らなくてもこのサントラを聴いて楽しめるんじゃないかと思いました。

第90回 斎藤恒芳さん
(初出:2002/11/22)

紹介するサントラは、

朝霧の巫女 幻想音楽・第一集 幽世 (キングレコード KICA583)

斎藤さんといえば、葉加瀬太郎さんとともにクライズラー&カンパニーとして楽曲を発表していたことの方で知っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。葉加瀬さんはどちらかというとクラシックをよりポピュラーな形にするものの洋楽としての属性を活かす方ですが、斎藤さんの方はポピュラーではあるもののむしろ邦楽としての属性に近づけていく感じが近いという気がします。

闇の末裔というアニメ作品の音楽を担当したときは、斎藤さんの持つ邦楽的な要素が遺憾なく発揮されている楽曲にはなっていました。ただし、作品が持つものが和の要素よりもキャラクターの端麗な姿を強調したものになっていましたので、音楽がそれほどうまく活かされているといった印象にはなりませんでした。それでも、楽曲としての良さから比較的サントラ好きな方々には評価が良かったようです。

今回取り上げたサントラも、闇の末裔での和を基調とした楽曲の品の良さを保ちつつ、作品の場面を引き立てる劇判としてもしっかりとできているものになっています。和を基調となると比較的単調な旋律を重ねるような気がするのではないかと思いますが、思いの外メロディアスに旋律が流れていくのですね。(まあ、最近の純邦楽もそういったテイストが多くを占めていますが)曲調として劇判で近いとすると、久石譲さんの「はるかノスタルジー」がそれにあたるのかな?今回取り上げたサントラでは、そういった落ち着いた日常をちょっと劇的に見せるような曲が多いです。(まあ、幽世(かくりよ)とサブタイトルがついていますからねぇ…)
そういえば、三味線を使うアニメサントラの楽曲といえばほとんどがコミカルな曲なんですが、このサントラではしっかりとしたコミカルでない場面向けの曲でしたね。それに、尺八かな?と思ったらフルートでの主題曲のアレンジだったりしますからねぇ…

実は朝霧の巫女ではこれとは違ったテイストの曲調も多く、その曲も含めてかなり幅広く劇判音楽が作られているのですが…それはその後発売されるサントラが出たら語りたいと思います。
 
 
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第91回 大谷幸さん
(初出:2003/01/24)

紹介するサントラは、

灰羽連盟サウンドトラック ハネノネ (パイオニアLDC PICA-1270)

灰羽連盟という作品自体、映像やストーリーもモノトーンがかかったように落ち着いてゆったりと日常を描いていくという話でしたから、アニメの属性とされている感じの「デフォルメ(強調)」がほとんど感じられなかったです。そのため、サウンドトラックとして作られた音楽もキャラクターや場面にあわせて(通常よくある)細切れに作る必要がなく、むしろクラシックなどの楽曲のようにある程度の時間を持ってイメージを表現していくことに注力できた感じです。

歌詞のある曲ばかり聴いていると忘れてしまうのですが、ひとまとまりの楽曲というのはあるイメージを元に一つの完結した物語を表現していることが多いんです。だから、第1主題-間奏-第二主題という風に、一つの楽曲の中で起伏をつけたり、フェードアウトすることなくオチをつけたりするんです。
劇判として利用する場合、このような「通しで一つの作品」となることは、場面を演出するための汎用性という部分では困ったことになるのですが、音量を下げてイメージを補完するという役割にすれば、利用することが可能になります。

そういったある意味「立っている」楽曲というのは、楽器の数をある程度絞ってメロディーラインを明瞭にしてシンプルな音の重ね合わせで作られるもののようです。バロックなどある程度古典に近い音楽では、近代の交響曲などで特徴的な部分しか覚えられていない、ということがなく、かなりの部分まで覚えている例が多いことからも、なんとなく分かるのではないでしょうか。

大谷幸さんがこれまであまりクラシックに近い音楽をサントラとして作られた例を聞いたことがなかっただけに、この灰羽連盟の音楽は新鮮でしたし、本当に次々と浮かんできて作られた曲たちという印象を感じました。
 

第92回 菅野よう子さん
(初出:2003/01/24)

紹介するサントラは、

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX O.S.T. (ビクターエンタテインメント VICL-61051)

通常の楽曲のアルバムとして聴いたら、それほど違和感なくテーマ性のあるしっかりしたものであるという評価になるでしょう。COWBOY BEBOPのサントラよりも楽曲の曲調及びアレンジは、さすがと唸(うな)らせるものだったりします。

しかし、このサントラCDを劇判という認識をして聴くと、妙な違和感を感じるんですね。表現すべき場面が浮かびにくいくらい、楽曲として完成されていて「遊び」がない。逆にきちんとはまる場面がないとこれらの曲を使うのは難しいし、旋律も歌詞も立っていてカスタマイズされた曲という印象です。

歌詞付き楽曲が多かったとされる梶浦由記さんのNoirにしても、菅野さんのTVドラマのサントラ 23時の音楽にしても、ここまでイメージがタイトではなかったという印象があるだけに、今回は完成度を高めすぎたという感じを拭えませんでした。それゆえ、最近担当されたWOLF’S RAINというアニメの音楽は、そのズレを戻したという感じがあります。

それと、攻殻機動隊という作品から来るイメージとして、劇場版で川井憲次さんが示した方向性と(制作側自体が変えて来るという意思表示をしていましたから)ずいぶん異なっているのは理解できます。それを考慮すると、どうしてもあの攻殻機動隊のキャラクターや作品世界がイメージできないというのは、どうも作曲家より発注側の方にその理由があるように感じられたのでありました。
 

第93回 ショーロ・クラブ
(初出:2003/01/24)

紹介するサントラは、

ヨコハマ買い出し紀行-Quiet Country Cafe- オリジナル・サウンドトラック (SMEビジュアルワークス SVWC 7149)

ニューエイジミュージックなどの棚で、ショーロクラブの名前は存じ上げていましたし、ある程度楽曲も聴いたことがありますが、なかなかアルバムを買うまでに至らなくてねぇ…こういった形でようやく購入したことになります。

バンドリン、ガット・ギター、コントラバスが織りなす南米リオデジャネイロ生まれの「ショーロ」というインストゥルメント音楽。聞き慣れない音楽のはずなのですが、楽器の編成でも分かるようにすんなりと室内楽として心地よく聞こえるんじゃないでしょうか。

ヨコハマ買い出し紀行という作品自体、かなり雰囲気と間(というより空間)を描いているものですから、こういったゆったりとしていながらしっかりとメロディーが立っている楽曲というのがしっくり来るようです。

OVAとして発売されているDVDの方で、じつは台詞もなくこの音楽だけの音声モードがあるんですが、違和感なく見ることができたりします。

ちなみに、このショーロ・クラブが作った楽曲をオーケストラにアレンジしたものも、このサントラには収録されています。オーケストラへの編曲は岩崎琢さんが担当。これはこれでなかなかいい感じに仕上がっていて、ひょっとするとこのアレンジの方が、(ヨコハマ買い出し紀行ではちょっと無理だけど)場面への汎用性があるかもしれないと思ったりもしました。
 

第94回 斎藤恒芳さん
(初出:2003/01/26)

紹介するサントラは、

朝霧の巫女 幻想音楽・第二集 現世 (キングレコード KICA593)

この前紹介した第一集 幽世の方が思いのほか多くのTV番組で使われていたのを確認できたんですね。どちらかというとサントラとしては派手さがない落ち着いた情景描写の音楽が多かったので使われるということは、今回紹介する方なんてもっと…と思えてなりませんね。

今回紹介する第二集 現世(うつしよ)の方は、「現世の音色-allegroアレグロ-」「現世の音色-adagioアダージョ-」「光風霽月-こうふうせいげつ-」とボーナストラックの4つに分かれています。

アダージョは、幽世の落ち着いた日本的な曲調のものを集めていて、サントラでも場面展開にあわせるベースとなる曲が多く収録されています。妖怪との対決とそれに伴う心情の揺れを表現する曲とメインテーマのアレンジバージョンですので、この辺の説明は第一集と同じになるでしょう。

第二集として際立つのは、アレグロとしてまとめられている最初の部分。
斎藤さんの音楽が持っている日本的ともいえるテイストはあるんです。でも、それらに一般的に学園もののアニメでは必須とされる、リズムを多少高めたりして変化させて日常の出来事の描写をする、バリエーションの異なる音楽が収録されています。ポップな感じのものやコミカルに聞こえるもの、いかにも妖怪もののようなものなど、かなり映像への汎用性がある曲がまとまっています。フォークやカントリーっぽい曲もあるし、比較的最近の他のサントラでは作られていないテイストのものだから、使い勝手がいいのではないかと思います。

光風霽月の部分は、場面の最初や最後でまとめるような感じの曲を3曲集めています。ここで気になるのは、Track27 友情 という曲。ギターとフルートの旋律が印象的でして、鉄道などからの車窓の風景とその車両を映した映像なんかにこれまた合いそうな曲でして…現に朝霧の巫女の中でもそういった使われた方をしていましたから、そういったTV番組での使われ方に合いそうな気がして仕方ないです。
 
 
88七瀬光 89 岩崎琢 90 斎藤恒芳(朝霧の巫女1) 91 大谷幸 92 菅野よう子 93 ショーロ・クラブ
94 斉藤恒芳(朝霧の巫女2) 95 西田マサラ 96 羽毛田丈史 97 ダブルオーツ(安部純・武藤星児)・増田俊郎 98 川井憲次 99 根岸貴幸
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第95回 西田マサラさん
(初出:2003/02/23)

紹介するサントラは、

L/R オリジナルサウンドトラック INSIDE SIDE (VICL-61085 ビクターエンタテインメント)
L/R オリジナルサウンドトラック VOCAL SIDE (VICL-61076 ビクターエンタテインメント)

西田さんの前作になる あぃ・まぃ・みぃ ストロベリーエッグは、サントラの個別の楽曲としては表現力もあり興味深いものでしたが、作品自体の世界感に飲み込まれすぎて、クールというのかある種の格好良さが埋没した印象がありました。

もともと西田さんの作る楽曲は、楽器を重ねて旋律を作り出すインストゥルメントというより歌などのくっきりとした旋律に音を重ねていく方が得意な感じです。今回のL/Rは、ボーカル曲を徹底して使い切ることを選択したため、得意技をいかんなく利用して作れたんじゃないでしょうか。

テーマとなっているインストゥルメントの楽曲とVOCAL SIDEに収録したもののkaraoke Ver.がINST SIDEとして収録されていますが、たぶんそんなことを気付かないくらい、一体のサントラとしてテーマ性を持って聞こえるのではないでしょうか。ボーカル曲をサントラとして利用した例は、菅野よう子さんや梶浦由記さんがありますが、いずれも挿入歌としてシングルカットされたりしたものを除きボーカルソングからちょっと外した部分があるんです。ところが、西田さんの楽曲はわざわざボーカルアルバムを作れるくらい、個別の楽曲としても聞けるものだったりするんです。

L/Rという作品自体、他のアニメ以上に台詞が結構多い感じでして、それゆえ際立った(最近のTVドラマでは多く行われている)歌をサントラとしても違和感なく利用されることができる土壌があるようです。それだけに、作曲家が持つ属性を存分に発揮して、さらにサントラアルバムとしても聞かせてくれるというのは、なかなかいい感じに仕上がったなぁ…という感想です。

第96回 羽毛田丈史さん
(初出:2003/03/14)

紹介するサントラは、
魔法遣いに大切なこと オリジナル・サウンドトラック
(パイオニアLDC PICA-1271)

羽毛田さんといえば編曲者としての仕事はサウンドトラックも含めてかなりお見かけしているものですが、TVアニメシリーズでの仕事はほとんどなかったようです。

品のよいアレンジ、というのでしょうか。楽曲で使われている楽器や旋律もコミでバランスがとれていて、いろんな風景がイメージされるのですが、それでいてきちんと基準となるような場というものが感じられるんです。
ゴンチチ・遊佐未森・太田裕美・鬼束ちひろ・Vlidge・原田知世・元ちとせなどのアレンジ・プロデュースを手がけているといえば、なるほどということになりますね。

個人的には、NHK 地球に乾杯などのテーマ曲などの仕事に引かれるものがありまして、透明感のある作品の音楽を担当しないかな…と思っていたら、ようやくこの「魔法遣いに大切なもの」という作品の音楽を担当されることになりました。もう、この時点で個人的には「買い」を決めていましたからね。

発注側の角川大映プロデューサーの藤田さんが、
自分が企画段階からイメージした劇判は、ピアノ、チェロ、ヴァイオリン-弦楽の『きれいな音』-『澄んだ音』がいいなっていうのがあったんです。それも特定のシーンだけに合うような短い曲を並べるのではなくて、曲として取り出しても、じっくり聴ける音楽を、と考えていたんです。

と、コメントしているんですから、かなりどんぴしゃりということなんでしょう。

個人的にこのサントラについてコメントするより、ブックレットから引用した方が適切なので、今回は引用しまくります。

羽毛田さんも、この作品に対してどうイメージしたかというと、全曲解説の1曲目 この空と大地が出会う場所<メインテーマ>(下記の文)を見ると分かります。

僕がこの作品に対して最初にイメージした、風景、かおり、色彩。
どこかヨーロッパ中世の雰囲気が残る田園地帯、懐かしさと透明な少し草のにおいがする風。目を閉じて、あなたの絵をイメージしてください。

全曲シンセをほとんど使わず、最近のサントラとしても贅沢な作り方をしております。(なぜ、これが深夜に放送…といいたいくらい)

ベースとなる話が東京で繰り広げられていて、本当ならそこのイメージに合うようにするならもっといろんなくすんだ色を加えてもよさそうなのです。でも、主人公である遠野から出てきたユメの澄んでいてかつ芯の強いものを表現するかのごとく、サントラもそして映像も素直で美しく透明感があるものに仕上がっています。

第97回 ダブルオーツ・増田俊郎さん
(初出:2003/04/27)

今回は、ダブルオーツ(安部純さん・武藤星児さん)と増田俊郎さん

紹介するサントラは、
ななか6/17 オリジナルサウンドトラック ココロノオト
(Lantis LACA-5161)

作品の設定そのものが日常を描いていくこともあって、それにつけられる音楽も極端に曲調が変わることなく落ち着いた感じの曲がつくことになるんです。そういっても、スタンダードなものばかりを並べて音楽にしていくと、他の映像作品と印象がダブってしまいますし、作品もそれに引きずられたものになってしまいます。

こういった作品の音楽は、どうしても他の同種のアニメと音楽としての違いを感じづらいのですが、複数のテーマ設定と編曲を活用することが重要になってきます。メインとなるものをキャラクターや主場面設定といったテーマごとに複数作り、重ねていく楽器や曲調を微妙に変えていくことで、サントラとしてのバリエーションを増やしていきます。

そうはいっても、1人ないし1グループで作れるキャラクターなどテーマごとの曲をある短期間に作るのは結構大変なので、ある程度長期の場合は複数に発注するとか、当初シリーズの後期間をおいて新展開したら別の作曲家に発注することが多いです。

ところが、1クール(3ヶ月 おおむね13本)の作品でこのように複数に発注する事例はあまりないんですが、この作品の監督の桜井さんと長くつきあっているということでダブルオーツさんと増田さんと集まって、ざっくばらんに話し合って決まったとのこと。実は桜井監督の作品で双方参加しているんですが、その音楽の違いがあんまり分かりにくいんじゃないかと思うくらい、似通っている感じに仕上がっているんですねぇ。

そういうわけで、このサントラで担当がそれぞれ違っていることを確認するまで、曲として聞き分けするのは難しかった感じでした。それくらい、一つの作品テーマの曲群を一体して作ったという印象が感じられます。たいがいこの手の2チームによる音楽の場合、コミカルな方と重厚な方といった区分けで作られるんですが、このサントラではそういった形になっていないことがブックレットを見てようやく分かるくらいですから。

大まかな区分けとして、挿入歌やこの作品の中ででてくるアニメ まじかるドミ子 にかかるものは、ダブルオーツさんの担当ということのようですが、残りは作れそうなテーマを双方分担して作ったというところのようです。

作品が持つ多層的でまともに表現するとダークな印象を持つような部分を、コミカルな部分と絡めて演出することで、うまく緩和してしっかり最後まで興味を引きつける作品に仕上がっていました。その演出要素としての音楽としても、うまく仕上がっていたようですし、音楽そのもののテーマ性も(複数で作られたということもあって)あんまり感じられないため、他の映像への適用(汎用性)も兼ねそろえているということでも評価できるサントラに仕上がったようです。

第98回 川井憲次さん
(初出:2003/06/21)

紹介するアニメサントラは、
ガンパレード・マーチ〜新たなる行軍歌〜オリジナルサウンドトラック
(パイオニアLDC PICA-1278)

戦争物+学園ものというアニメ(言い切っちゃっていいのかとも思うのですが…)ということです。極端に学園ものっぽいコミカルな曲調のものはほとんどない…といいたいのですが、川井さんのサントラですからそういったことはないですね。

テーマが決まったマーチ調の曲が楽曲の多くを占めるのですが、必要以上にテーマに縛られることなく、これまでの川井憲次の曲のバリエーションを一通り織り込んだ楽曲に仕上がっています。

さすがに、表現すべき映像の情景に極端にズレがあるということで、落ち着いた日常・戦闘場面ではかなり異なった楽曲という印象を受けるはずです。

そうそう。
KENJI KAWAI CINEMA ANTHOLOGY (キングレコード KICA 9601-4)
も同時期に買ったんです。劇場用サウンドトラックでは場面にダイレクトにあわせるということでカスタマイズしているだけに、楽曲の質も高いと思いました。たぶん、こういったものがサントラ好きにはたまらないと思いますね。

でも、テレビアニメのサントラはどの場面ではめ込まれるか分からないため、どうしても汎用性を求められており、そういった部分での川井憲次の評価を私はしてしまうんですね。逆に場面をサントラの曲のタイミングに合わせたくなるくらい、場面をイメージしやすく、かつ他とは違う独自の楽曲と思える点は、どうも当たりはずれがでてしまうんですね。

そういう意味では、ガンパレード・マーチのサントラは結構汎用性という部分でマッチングした楽曲が(複数の表現すべき場面もあり)うまく表現されているのではないかと思うのでした。
 
 
88七瀬光 89 岩崎琢 90 斎藤恒芳(朝霧の巫女1) 91 大谷幸 92 菅野よう子 93 ショーロ・クラブ
94 斉藤恒芳(朝霧の巫女2) 95 西田マサラ 96 羽毛田丈史 97 ダブルオーツ(安部純・武藤星児)・増田俊郎 98 川井憲次 99 根岸貴幸
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第99回 根岸貴幸さん
(初出:2003/07/16)

取り上げるサントラは、
東京ミュウミュウ オリジナルサウンドトラック (NECインタチャネル NECA-30067)
東京ミュウミュウ オリジナルサウンドトラックvol.2 (NECインタチャネル NECA-30078)

私が作品中で聞いていた想定以上に使われているというところでしょうか。ただし、キャッチやメインテーマのアレンジ曲に他番組での利用が集中していることからも、それほどこの作品の特徴的な部分があって使われているとは言い難いようです。

根岸さんの曲は、基本的にクラシック的な音楽をベースとしていて、メロディーやアレンジを含めて際だった特徴を持つようなものはないというのは、以前にも述べたと思います。そういう点から、劇判として場面ごとにあわせた曲というものの多くは、どうしても類型的に聞こえてしまうというものをはらんでしまうようです。

そういった部分を比較的回避していて特徴的といえる曲としては、それぞれ主キャラのテーマがあげられるでしょう。とりあえず「変身」場面での曲ですから、キャラのイメージにあった曲調を選択して、徐々に変化させていくというのは、根岸さんの特徴を出しやすいもののようです。
最初に発売したサントラで利用しやすい曲が、後半にあるものが多いのは、そういった理由からでしょう。

vol.2の方は、作品のイメージを表すような曲よりも具体的な場面描写の曲が多く、またクラシック的な曲より打ち込み的な曲が多いのが特徴です。しかし、どうも過去に作られた作品のイメージが浮かぶような曲も多いという印象もあるものでして、サントラ全体として突き抜けたという印象を持ちにくかったんです。

まあ今回はまとまりのない説明になってしまいましたが、少女もの・変身ものということがあったことが、結果としてあまり特徴的な部分を出せなかったサントラという印象をしました。さて、そういった縛りがなくなるとどういった作品が作られるかというのは…それはまた別の機会にでも。
 

今のところ16シリーズまで

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