作曲家別アニメサントラ紹介-14

<最初に>
それにしても、もう100回も書きましたか…取り上げたサントラの数はそれ以上になっています。
CYBER STATION電子掲示板を書き始めて1年くらいしてからずっと継続していった連載形式の書き込みです。
場違いな気がしますが、これはこれからも続けていきたいと考えています。(いや、もう何枚も買っていて紹介しようとしているサントラが貯まっているし)

sh-katoのページに掲載して、この書き込みのためにデータベース化したアニメ作品と音楽担当のリストもふくめて感想や協力をしてくれる人もメールなどで幾人か出てきてくれました。
また、実際に読んでいただいている方ともお会いする機会も(意外な場だったんですが)出てきたりしたんです。
ここで取り上げたりした作曲家さんにも、連絡を取る機会もあったわけですし…いろいろなことを書き続けていることによって、得られたんじゃないかと思います。

ただ、実際に聞いてみないと分からないわけですし、アニメやインストルメント楽曲の状況・TV番組など複数の知識をそれこそ「適当に」組み合わせて書いているわけでして…
読んでお楽しみいただいているかどうか、書いている側としては不安がず〜っとあるんです。

まあ、それでも書き続ける所存ですので、おつきあいいただき、たまにはここで取り上げられたサントラを購入してみていただきたいと思います。

これまで取り上げたサントラのTV番組での利用頻度は、下記URLを参照のこと。
http://sh-kato.cyber-hp.jp/cdf-00.htm
 

(初出 2003/08/28)
 
 
100 根岸貴幸 101 岩崎琢(R.O.D OVA) 102 佐橋俊彦 103 TRY FORCE 104 大島ミチル(鋼の錬金術師) 105 岩崎琢(R.O.D-THE TV))
106 千住明 107 大島ミチル(まっすぐにいこう。) 108 大島ミチル(花右京メイド隊 La Verite) 109 ダブルオーツ(安部純、武藤星児)DAVID MATTHEWS 110 林英哲、和田薫 111  渡辺俊幸
112 梶浦由記 113 岩崎琢(焼きたて!!ジャぱん) 114 折戸伸治さん、戸越まごめさん、麻枝准さん ページ最初へ ページの最後へ

            

第100回 根岸貴幸さん
(初出:2003/08/28)

取り上げるサントラは、
成恵の世界 オリジナルサウンドトラック (Lantis LACA-5187)

このサントラって、最近あまり新作としては聞こえてこないフォークソングっぽい部分が聞こえてくるなぁ…と思ったら、音楽のコンセプトが「フォークソングのような口ずさめるメロティ」とのこと。実は根岸さんもそういった音楽が比較的なじんでいる世代であったわけですが、なかなかそういったものを繰り入れる作品というものはなかったのようです。

フォークソングのような曲として特徴的なのはTrack 27「奇跡な二人」でしょう。なんとなくフレーズをつけて口ずさめそうですし、同じメロディーラインの曲としてTrack 7「優しい気持ち」など、同じ主題の曲ですがアレンジ(編曲)による印象の違いをつけていて、テーマ性と汎用性を両立した作りになっています。もともと、アレンジャーとしての仕事が根岸さんはメインとしていたことからも、このサントラでも活かされた形になっています。

コミカルタッチな曲はあまり引き出しをもっていないようでして、過去の作品と似たようなメロディーが…と思いますが、それでもしっかり違った曲に仕上がっています。

宇宙も出てくる設定なので、当然雄大な世界を表現する曲があるんですが、音源を多くして広がりを見せるのではなく、あくまでメロディーとしてそれを表現している点は、評価していいかと思います。それは、あくまでこの作品がラブコメであるという前提を曲としても外したくないという制作側の意向がしっかりしているからなのではないでしょうか。

メインテーマとして、複数のアレンジバージョンが作られた曲である「大切な人」のメロディーの良さは、これまでの作品とは異なって成恵の世界をストレートにイメージできるようになっている印象があります。それは、トータルでこれまでの場面にあわせたバリエーションを作ってきたのではなく、まずメインテーマを作ってから、それにあわせて楽曲を作ってきたということなのでは、と思ったりもしたのでした。

このサントラに惜しむべきは、ライナーノーツとして楽曲の解説・根岸さんの話は掲載されていたのですが、音楽制作にかかわっていた方の名前が掲載されていなかった点。こういった形でないと記録として残りにくいですし、調べるのも難しくなるので、できれば掲載していただきたかったなぁ…と思っております。
 

第101回 岩崎琢さん
(初出:2003/10/05)

紹介するサントラは、

R.O.D Original Soundtrack (SME ビジュアルワークス(現 アニプレックス) SVWC 7078)

それなりに評価が高い岩崎琢さんの作品でしたが、R.O.D.(READ OR DIE)という作品は、OVAということもあって見聞きすることができなかったんですねぇ…そういうわけで、TV版が作られるということでCS アニマックスの放送でようやく見ることができて、その後さっさと購入してきたということになりました。

劇判として明確な場面がある曲の作られた方のうまさは、岩崎さんのアレンジャーとしての実力をそのまま反映していると言っていいかと思います。
それよりも岩崎さんらしいのが、3つのテーマとして作られている曲。全体を通じて1960〜70年代のテイストで、スパイもののテーストとされオープニングなどで使われた「メインテーマ」 ・フランス映画の雰囲気を狙った「読子のテーマ」・エンディングや作戦が開始されるときに使われた大英図書館特殊工作部「"作戦"テーマ」は、一つの楽曲として聞かせてくれるくらい、はっきりと第1主題・間奏・第2主題といった曲としてのストーリー構成もできています。

テイストとしての曲調は、確かにどこかで聞いたことがあるものなのですが、本歌取りといったあらためて作曲者自らが昇華して構築した曲というのではなく、岩崎さんがもともともっている曲調をベースにしつつ、アレンジしていったという感じのようです。

よくよく聞いて振り返ってみると、このサントラのその3つのテーマ曲って、いろんな他の映像の場面で聞こえてくることがあるんですねぇ…リズムやその曲の長さも場面に考慮して作られている曲と違って、主題が明確で比較的長目の曲というのは、結果として汎用性が高いサントラ曲となっているのかもしれません。

第102回 佐橋俊彦さん
(初出:2003/12/21)

紹介するサントラは、
GUNSLINGER GIRL SOUND TRACK
(マーベラスエンターテイメント MJCG-80140)
フルメタル・パニック?ふもっふ オリジナルサウンドトラックアルバム
(ポニーキャニオン PCCG-00626)

佐橋さんを取り上げる場合、戦隊ものっぽい慣れているもの以外を取り上げているなぁ…通常要求されるバリエーション以外の方が、興味深い作品が多いように私は感じているものですから、自然とそういう取り上げ方になってしまいます。

戦隊ものの場合、映像がかなり型にはまった表現をある一定の割合求められるので、どうしても作品としてのオリジナリティがある曲のメロディーというのが限られてしまいます。そういったことがあっても、それでも毎回「違う」といいきれる曲を提供している方であるだけに、自由題といえる他のアニメでは、意外とも思える聴き応えのあるサントラを作られるようです。

ガンスリンガーガールは、イタリアが舞台ということでその雰囲気を感じられる曲調のセレクトをしているものもあります。それをうまく表現しているのだけでもさすがという感じですが、それよりも品のよいクラシックぽく前面に曲そのものが出ることなく、きちんと場面が表現されていてかつメロディーが立っている曲が多くを占めています。この手の楽曲を得意とされる方も何人かおりますが、単調になることなく(気づきにくいんですが)微妙にメロディーそのものを変えて、ある種の起伏を与えているようにできているようです。(この部分は聞き違えかも…ちょっと自信ないです。通常は、転調やリズムを変える例が多いんですが、それだと曲調そのものが変わったように感じるようです)

フルメタル・パニック?ふもっふ では、フルメタル・パニック(前作)とはうってかわって、ミリタリー色はすっかり薄れドタバタ学園ラブコメディーですから、日常的なのどかな雰囲気を描写する曲・ちょっとしたサスペンスっぽい場面を出すための緊張感のある曲・あくまでコミカルに間抜けな感じを出す曲をいくつか組み合わせて提供する必要があるんです。緊張感のある曲は他のサントラでも比較的登場していますし、コミカルな曲は風まかせ月影蘭で聞いたんですが、日常的な雰囲気を出すのに、リズミカルな曲を持ち出してきたのはさすが!という感じでした。意外(といっては失礼ですが)リズミカルなポップス調の曲でバリエーションがあるようでして、他の作品で活かされたらどんなにおもしろいものに仕上がるのでは?と思ったくらいです。
ただし、ポップス調の曲調自体は、ちょっと古めの感じがしましたが。

たくさんの作品を作っていると、どうしてもパターン化されたサントラとしての曲っぽくなるか、自らのオリジナルのパターンに聞こえてしまいがちになりますが、アニメーション作品自体がこれだけたくさんのジャンルに細分化されているだけに、音楽を作る側の引き出しを新たに引っ張り出して、より多くの興味深いサントラが登場するのではないでしょうか。それを感じさせた、2枚のサントラでした。

第103回 TRY FORCE(須藤賢一さん・河野陽吾さん・影山ヒロノブさん・栗山善親さん)
(初出:2004/03/12)

紹介するサントラは、
「妄想科学シリーズ ワンダバスタイル」オリジナルサウンドトラック This is Wandabastyle (Lantis LACA-5170)

TRY FORCEは、須藤賢一さん・河野陽吾さん・影山ヒロノブさん・栗山善親さんのユニット。いろいろとつくられているようですが、この作品が異常に引っかかりがありましたかねぇ。もともと、無国籍サウンドをよくつくられていたようでして、そういった流れから見ると、ある意味自然な作品ではあるんですが…そもそも作品自体が吹っ飛んでいる設定ですからねぇ。売れないアイドル4人組を、いかにもうさんくさい科学の力で宇宙にとばしちゃう話ですから。

そんな作品の設定はともかく、サントラ曲の方はサイケデリックな世界を見事に表現しております。60年代ポップスを懐かしむ世代がつくったような作品なんだろうねぇ。映像のかわいらしいキャラと吹っ飛んだ設定に、合わないかと思ったら、これがしっかり音楽が包み込んじゃっている感じなんです。濃いもの通しで、よくこれだけあったものです。

まあ、劇判そのものとして考えてみると、サイケデリックな曲というジャンル自体、あまりつくられていなかったような気がしますし、そのころの気分を使って表現できそうな映像が、1990年代はあまりなかったようです。それを知っていて使いこなせる世代が、映像をつくったりする側に出てきたことと、時代の気分がこういった曲を受け入れやすい映像を呼んでいるように、私には思えました。ある意味、お約束となる部分が増えてきたということも、影響しているんじゃないかと。TRY FORCEの面々のライナーノーツは、昔語りのオンパレードでしたし。

でもねぇ。この曲が聞こえてくると、あの妙なグループ みっくすJUICEのメンバーやキクちゃんの絵が見えてくるもんで…なんだかなぁ。サイケの方の絵が浮かびにくいのは、作品を見てしまっただけに困った話であります。
 
100 根岸貴幸 101 岩崎琢(R.O.D OVA) 102 佐橋俊彦 103 TRY FORCE 104 大島ミチル(鋼の錬金術師) 105 岩崎琢(R.O.D-THE TV))
106 千住明 107 大島ミチル(まっすぐにいこう。) 108 大島ミチル(花右京メイド隊 La Verite) 109 ダブルオーツ(安部純、武藤星児)DAVID MATTHEWS 110 林英哲、和田薫 111  渡辺俊幸
112 梶浦由記 113 岩崎琢(焼きたて!!ジャぱん) 114 折戸伸治さん、戸越まごめさん、麻枝准さん ページ最初へ ページの最後へ

第104回 大島ミチルさん
(初出:2004/05/16)

今回は、大島ミチルさん。

紹介するサントラは、
鋼の錬金術師 オリジナルサウンドトラック1 (アニプレックス SVWC 7191)

最近、現代音楽っぽいオーケストラのサントラはあるんですが、クラシックな曲調の部分が目立つサントラがなかったようですが…ようやく、そういった感じのサントラが登場したという感じでしょうか。
実は、そういったサントラが出てくるためには条件がありまして、舞台設定やストーリーがクラシックの曲調としてある程度出てくる「重み」のようなものに耐えるだけのしっかりとした骨格のようなものが必要なんです。また、必要以上に重い感じがつかないように、コミカルな部分も併せ持つというバランスをとる必要もあるんですね。

鋼の錬金術師という話自体は、かなり重いテーマを持った作品であります。でも、そこで表されていく表現そのものは、どんよりと曇った感じではなく、むしろ曇ってはいるものの突き抜けるように広がりを持つ空のような鮮やかな部分を持っていて、それを音楽としてどのように表現するかということになったようです。(この辺は、サントラにあるブックレットの受け売りです)

現代音楽っぽいオーケストラというのは、ちょっと表現としてずれているかもしれませんが、表現すべき場面なりその登場キャラの心情といったものをかなり抽象的であるんですが、思いの外分かりやすい形で音楽に仕立てているんですね。確かに、大変な展開になったなぁ…ということは分かる。でも、複層的に場面が浮かんでこないんですね。

クラシックの曲調というのは、思いの外パターンで作っているように見えて、主題となっているメロディーと個々のリズムや転調などを使って一つの曲の中に複層的に場面を描いていることが多いんですね。そういった部分が、大島さんのサントラには明確に出てきておりまして、この鋼の錬金術師のサントラでも、いかんなくその表現が発揮されているという印象を受けました。

でも、作品そのものが持つ生命そのものの有り様と向き合っていくという重い感じの曲は多いです。それゆえ、(大島さんが以前作った魔法使いTai!のように)いろんな画像や場面に使えるといったものではないかもしれません。だからこそ、光のようなものが見えてくる曲がサントラの中に時折出ると、一層その輝きが増しているようにも思えるのでありました。
 

第105回 岩崎琢さん
(初出:2004/05/30)

今回は岩崎琢さん。

紹介するサントラは、
R.O.D -THE TV- ORIGINAL SOUNDTRACK (Aniplex SVWC 7192〜3)

OVAシリーズの時のR.O.Dのサントラは、オリジナルの曲という部分の残しつつ、過去の映画音楽などの曲調を取り込んだという形であり、また表現するシーンが比較的分かりやすいということもあって、岩崎さんの曲としては珍しく輪郭のくっきりした曲が多かったです。

それと聞き比べてしまうと、どうしてももっと落とし込んだ落ち着いた感じの曲調が多くて、食い足りない部分を感じてしまうかもしれません。でも、もともと岩崎さんがつくる曲調としては、小節の中で長目の音をゆったりと重ねて、少ない音源で音を響かせるという感じが多いので、むしろ今回のアルバムの方が通して聞くと聞きやすい感じがします。

でも、曲とタイトルがずいぶん違っているような…と思うものも少なからず存在しますねぇ。実際に場面として使われた曲とのズレも含めて。それは、映像の場面としてははじけていたり緊迫感があっても、音の方はそれをくっきりとさせるためのおとなしい感じの基礎表現としての音に徹している感じです。それは、場面・カット割りにあわせてBGMがカットされることは少なく、ほぼ通して曲が使われることが多いことにその理由があるのかもしれません。

それでも、のどかであったりコミカルである曲もしっかり作られているわけですが、その比重が作品のトーンの割に少なかったように感じられましたが、それは岩崎さんの曲調としての得意技を考えると、今回のサントラのような形の方が自然に思えたのでもありました。
 
 

第106回 千住明さん
(初出:2004/06/28)

今回は千住明さん。

紹介するサントラは、
鉄人28号 音楽集(キングレコード KICA641)

一言で説明すると「日本 映像の20世紀」と「テクノパワー」をあわせたような作品です…と、みもふたもない説明になっちゃいます。それには理由があって、戦後すぐの日本が舞台であってちょうど日本 映像の20世紀で取り上げられたような映像にあわせる必要があった点と、これまたテクノパワーで扱ったような土木・建築を中心とした変わっていく力強さのある場面が登場する場面が多いという、2つの作品のテーマが見事に合わさったアニメ作品のサントラだからだと、私は勝手に解釈しました。

それはともかく、千住さんが持つ壮大で力強く、その中に細かな場面描写が織り込まれたオーケストラを中心とした曲調が、いい感じにおさまっているんですね。また、作品自体のカット割りも比較的細かに変化することなく、うまく引きと寄りを組み合わせて長目の音楽をあわせても違和感ないように作られている点も、いい感じに作用している気がします。

それと、かつての鉄人28号でつけられていた音楽をうまく取り込んでいる感じがするんです。直接その楽曲を使っているわけではないんですが、それでも過去の曲を知っている人でも鉄人28号の音楽と思える点はさすがという気がします。一番端的な例は、主題歌なども千住さんが編曲を担当していますが、それでもかつての曲を知っている人にとって違和感を感じないところでしょう。これとは逆に、鉄人28号の主題歌を明らかに取り込んでいるのですが、微妙に違ったものという感じがうけるのが「彼氏彼女の事情」のサントラ(鷺巣詩郎さん)なんでしょう。たぶん。それは、作品にどう映像を当てていくかという違いに起因する違いなのではありますが。
 
 
100 根岸貴幸 101 岩崎琢(R.O.D OVA) 102 佐橋俊彦 103 TRY FORCE 104 大島ミチル(鋼の錬金術師) 105 岩崎琢(R.O.D-THE TV))
106 千住明 107 大島ミチル(まっすぐにいこう。) 108 大島ミチル(花右京メイド隊 La Verite) 109 ダブルオーツ(安部純、武藤星児)DAVID MATTHEWS 110 林英哲、和田薫 111  渡辺俊幸
112 梶浦由記 113 岩崎琢(焼きたて!!ジャぱん) 114 折戸伸治さん、戸越まごめさん、麻枝准さん ページ最初へ ページの最後へ

第107回 大島ミチルさん
(初出:2004/07/29)

今回は、大島ミチルさん。

紹介するサントラは、
まっすぐにいこう。 オリジナル・サウンドトラック・セレクション (読売テレビエンタープライズ/フィルター・インク PRPH-5016)

珍しいなぁ…ライナーノーツとともに大島ミチルさんの写真が載っているのって。

そりゃともかく、このアニメ作品自体かなり制作上余裕がある作りになっていて、2003年夏と2004年春にそれぞれ4話を集中放映しているものです。まず最初の放映では、妙に場面と曲のタイミングがよくできているなぁ…と思ったら、映像が出来てからその絵にあわせた作曲するという、映画音楽でよく使われている方法で作られているとのこと。まず、こういったぜいたくな作りは、TVアニメではお目にかかる事はありません。
場面にあわせた曲となっていますが、そもそもTVアニメですからカット割りは比較的多くなっているため、1曲あたりの時間はそれほど長くなっていません。むしろ、大島さんが作る曲の長さとして適度なものになっているようで、一つの曲の中でテーマにあわせた主題とその展開がうまく表現できているようです。

後半のシリーズでは、当初作った曲にテーマ性やキャラクターを表現するための曲を追加していきますが、もともとクラシックを基調とした穏やかだがリズミカルな旋律に、違和感なくマッチして作られています。たぶん、連続してサントラアルバムを聴いてみても、作られた時期の違いなどは気づかれないんじゃないかと。それくらい、一つのアルバムとしても適度に聴く事ができるものに仕上がっているはずです。

ちょいと前に紹介した鋼の錬金術師とまっすぐにいこう。は、同じ作曲家によるサントラなんですが、明らかに違った作品として認識できるものになっています。それは、作曲家が持つ旋律のパターンのようなものが比較的強くでる方でなく、微妙に切り替わっていく部分が多いことと、それほどメインテーマとなる旋律が力強く聞こえてこないので必要以上に残ることが少ないからなのかなぁ…と、適当に考えてみたのですが、どうもまとまらなかったのでした。

第108回 大島ミチルさん
(初出:2004/08/29)

今回は、大島ミチルさん。

紹介するサントラは、
花右京メイド隊 La Verite Original Sound track (ジェネオンエンタテインメント GNCA-1004)

個人的にはこの作品、絵とか表現されている内容でちょいとはじいている部分があるんですが…大島ミチルさんも、このサントラのブックレットの中で

初めて原作を読んだときは、あまり女の子が読む感じのものでないので「うーん?」と思いましたけど(笑)、絵がとてもかわいいので、その「かわいさ」が出せればと思いました。

というわけで、慣れない作品に対応していったという事のようです。

直近の作品と関連づけて言うと、鋼の錬金術師よりもまっすぐにいこう。の曲調に近いのは、作品そのものが持つ重い部分があるかどうかの違いのようです。ただし、作られる曲調そのものは作曲家の属性が反映した、穏やかながらリズミカルな旋律を重ねていっております。それゆえ、曲そのものから作品がイメージできるかというとちょっと難しいかもしれませんが、その反対にアニメ作品からは、そのサントラの楽曲が浮かび上がってくるように思います。かわいい感じのキャラクターの映像に、プラスアルファのイメージを組み込むのはストーリーやそのときつけられる音楽ですからねぇ。

大島ミチルさんの楽曲では、ブリッジのように短い場面などをつないだり表現ふくらませるのに便利な曲はそれほどなく、ある程度の長さの曲で大づかみな場面を表現する曲がそのほとんどを占めます。映像がない段階でそれらを作るわけですから映像とマッチしない可能性があるわけですが、不思議とそういった事態になることはアニメでは起こらないです。それは、作品が持つ全体的なイメージという部分は、制作するスタッフが設定なり打ち合わせて共有していることと、そうでなければ商業用アニメーションは製作できないということになるのかもしれません。
また、共有している部分の中に、視覚と聴覚の両方でイマジネーションしていく「のりしろ」のようなものがあるんでしょうねぇ。たぶん。

この作品で興味深いのは、音楽担当の方がオープニング・エンディングの主題歌も作られた点。いくつかそう言った例はあるんですが、それほど多くないのが現状です。
主題歌も含めて同じ作曲家が作ったことにより、作品の音楽全体の音楽構成にいい影響を与えていて、かつ主題歌がある種の音楽のテーマとして機能しているようです。それは、他の作品でも見受けられる特徴であるんですが、それ以上に主題歌のインストゥルメントが歌つきが前提となっていないかのように一つの楽曲として聞けるというのは、映像音楽をメインでやっている大島さんらしい感じがしました。

それと、大島ミチルさんがブックレットの中で、

映像音楽をやっていると歌ものは書かないと思われることが多いんですが、私、実は歌ものの曲を書くのはすごく好きなので、今回はうれしかったです。

とのことですので、次の作品に歌ものの曲があることに期待したいと思ったのであります。
 
 
 
 
100 根岸貴幸 101 岩崎琢(R.O.D OVA) 102 佐橋俊彦 103 TRY FORCE 104 大島ミチル(鋼の錬金術師) 105 岩崎琢(R.O.D-THE TV))
106 千住明 107 大島ミチル(まっすぐにいこう。) 108 大島ミチル(花右京メイド隊 La Verite) 109 ダブルオーツ(安部純、武藤星児)DAVID MATTHEWS 110 林英哲、和田薫 111  渡辺俊幸
112 梶浦由記 113 岩崎琢(焼きたて!!ジャぱん) 114 折戸伸治さん、戸越まごめさん、麻枝准さん ページ最初へ ページの最後へ

第109回 ダブルオーツ(安部純さん、武藤星児さん)とデイビット・マシューズさん
(初出2004/10/17)

今回はダブルオーツ(安部純さん、武藤星児さん)とDAVID MATTHEWS

紹介するサントラは、
LEGENDZ JAZZ VOL.1 (インターチャネル NECA-30113)

このサントラはアニメサントラだとなめてかかって聴いてはいけない。
デイビット・マシューズ率いるマンハッタン・ジャズ・オーケストラのアルバムだと思って聴くべし。

「レジェンズ」というアニメの音楽の情報で、ダブルオーツが担当まではそれほど驚かなかったんですが、ジャズをベースにしたものということでニューヨークで録音するということで、もしや…とおもったら冗談抜きでデイビット・マシューズ氏という名前が出てきましたから驚きました。(フジテレビが絡んでいるので、フジパシフィック音楽出版が音楽出版担当になるのですが、アニメ作品で本当にこういったことになるのは珍しい)

プロデューサーの椚山(くぬぎやま)さんがライナーノーツに書いていますが、せっぱ詰まった時間のない中、ニューヨーク録音は至福の時間という状況になったとのこと。アルバムを聴いて分かりますよ。ジャズ好きなら本当にそう思えるくらい、心地いい曲たちが音を響かせています。

ただし、アニメの劇判音楽ですから長くても3分程度。部分的にカットされても違和感を感じないような曲になっています。そのため、たぶんジャズにあまり馴染みのない方でも聴きやすい、平易なメロディーと短めのソロパートにそれほど楽器も多くないというものになっています。だからこそ、演奏者やアレンジャーの実力というのが出てくるわけですが…これがまたいいんです。心地よくて。

TVのスピーカーだとどうしても隠れてしまう部分がありますので、ぜひCDで購入してじっくりと聴いていただくと「聴かせてくれる」部分があると思いますよ。
 

第110回 林英哲さん、和田薫さん
(初出2004/12/25)

紹介するサウンドトラックは、

SAMURAI7 (エイベックスio IOCD-20089)

SAMURAI7は、楽曲の数はそれほど多くないサントラとなっているんです。それは、一つの場面にベースとしてみせるための必要最小限の音楽で構成したいということの表れではないかと思います。実際、映像の複数のカットでの一つのまとまりで音楽をつけているというものになっていて、それでいてきちんと違和感なく動きと音がシンクロしているように見えるというのは、楽曲の持つリズムが適切な形で構成されているからだと思うんです。

アジアのどこかにある国での話ということで、たくさんの民族楽器群を使っています。ともすればバラバラになりそうな楽器の特徴をうまくあわせて壮大な汎アジア的で疾走感のある楽曲に仕上がっていますが、これは犬夜叉で似た試みをしてきた和田薫さんの手腕によるところが大きいと思います。(林英哲さんも、ライナーにこの点を述べています)
それにも増して、和太鼓をはじめとする民族打楽器群を適切に音楽として聴かせるものとして作り上げてきた部分は、林英哲さんのこれまでの活動あってのものという認識をしました。

かなり大括りな場面にあわせる音楽としてつくられているために、SAMURAI7に限らず、緊張感のある戦いの場面などいろんなちょっと長目のカットの映像にあわせやすいものになっています。さらにいうと、多少時代が古いと感じられる戦国時代から江戸時代くらいの再現映像にもあわせやすくなっているのではないかと、個人的に勝手に思えるくらい、アジアの楽器群はそういったイメージを思い起こさせる音なのではないかと、あらためて思ったのであります。

第111回 渡辺俊幸さん
(初出2004/12/25)

紹介するサントラは、
「アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル」オリジナル・サウンドトラック
(ワーナーミュージックジャパン WPCL-10111)

よくよく考えると、こういった静的な場面を表現するアニメというのは最近少なくなっているんですね。かわいらしくキャラクターを見せる一見静的なアニメも、実はちょっとしたアクセントのような動きのためのキャッチィな曲やブリッジといったものが多用されて、案外動的なものだったりするんです。

とにかく淡々と、場面のどこにおいても無理なくおくことのできる音楽というのは、作り手としてかなり難しいものではないかと思うんです。それでいて、場面やキャラクターをイメージできるように表現するというのは、ゲームやアニメ音楽のように特徴を際だたせるものというより、映画音楽に近い手法でつくる必要があるようです。

渡辺俊幸さんの過去のアニメ音楽の仕事を見ると、作品の割に音楽があまり浮かびにくいのです。それは、映像にあまり邪魔にならないように注意してつくられているからではないかと思うんです。それと、リズミカルなメインテーマものよりメロディアスな感じのものが多いがゆえに、きれいに聞こえてとどまることなく流れてしまっているのかもしれません。

そういった流れてしまう部分が、この名探偵ポワロとマープルという作品の音楽では、逆に作品の世界観込みでイメージをふくらませることに寄与しているようで、作品の場面とあわせてサントラが思い出されるようになっていると思います。

良く聴いてみると分かるはずですが、楽器の編成など結構アニメサントラとしてはぜいたくなものになっています。ただ、それをさらっと聴いただけでは分からないくらい上品につくられているようでして、そういった部分からも作品の持つイメージを凝縮したものになっているように感じられたのでした。
 
 
100 根岸貴幸 101 岩崎琢(R.O.D OVA) 102 佐橋俊彦 103 TRY FORCE 104 大島ミチル(鋼の錬金術師) 105 岩崎琢(R.O.D-THE TV))
106 千住明 107 大島ミチル(まっすぐにいこう。) 108 大島ミチル(花右京メイド隊 La Verite) 109 ダブルオーツ(安部純、武藤星児)DAVID MATTHEWS 110 林英哲、和田薫 111  渡辺俊幸
112 梶浦由記 113 岩崎琢(焼きたて!!ジャぱん) 114 折戸伸治さん、戸越まごめさん、麻枝准さん ページ最初へ ページの最後へ

第112回 梶浦由記さん
(初出2005/01/10)

紹介するサントラは、
舞-HiME オリジナルサウンドトラックVol.1 姫
(Lantis LACA-5337)

梶浦さんのサウンドトラックというとどうしてもNoirの印象が強く、インストよりも歌詞付きの楽曲やインスト的に歌が入っているものの方が印象に残る人も多いんじゃないかと思うんです。そういった楽曲で、梶浦さんはうまく印象的なシーンを演出するものを多くつくっていますからねぇ。どちらかというとある種「闇」ともいえる場面で、かつ単調なトーンになることなく起伏をつけて場面をふくらませているからだと思います。

そういったものもいいんですが、違ったトーンのもの聴きたいなぁ…と思ったら、舞-HiMEのプロデューサーの古里さんが企画段階で音楽担当に梶浦さんを熱望していただいたようで、このサントラに繋がったわけです。
ライナーノーツの古里さんの文に、こんなのあるんですが…

梶浦さんの「学園の青春萌え音楽」が聴きたい!!(でしょ!でしょ!)
そして、「バトルシーンの超燃え音楽」が聴きたい(ねぇ〜〜!)

いや、ホントにそう思っておりましたが、実現しましたね。

舞-HiMEという作品は、学園ものでベースとして表現される平穏で楽しげな「光」の部分とこの作品のテーマである陰謀渦巻く謎と危うさを含んだ「闇」の部分をそれぞれ象徴的に表現する必要があります。そこで、映像だけでなく音楽にも同質の表現を要求することになりますが、どうしてもどちらか一方に偏ってしまったり、パターンにはまった楽曲になってしまうことが多いようです。

それゆえ、メインテーマとなる曲というのは光と闇という部分をうまく包括したものが求められるわけですが、これがうまくできているんです。今回取り上げたサントラのTrack 1「媛星」がそれに当たるのですが、出来がいいだけあってなかなか登場しませんが、メロディーのみのピアノ曲の方は結構ひょこひょこと作品に登場します。

ライナーノーツで梶浦さんが述べているのですが、

『舞-HiME』の楽曲群の中で一番はじめに作ったのが一曲目の、学園のテーマでもある「媛星」でした。実はスタッフの方と初めて打ちあわせて頂いている最中に出来た曲で、さすがにその場で五線紙を取り出すのは恥ずかしく、洗面所へ行く振りをしてこっそり譜面を書いておりました…。

作品を通じて楽曲を聴いていたのですが、なるほど と思った部分だったりします。これまでの梶浦さんのサントラより広がった世界観の表現となるのですが、それが違和感なく作り込めているのは、その作品のイメージがしっかり理解されていることが、このことからも分かったものですから。

楽曲としては、いろいろな音楽をうまく取り込んでいるというこれまでの雰囲気は変わらずに、でも必要以上に楽器を重ねることなく、メロディーをきちんと聴かせる方により進んだ感じがします。闇を表現する楽曲もこれまでのものよりも重みが減った分、リズミカルに聴かせている印象で、ずいぶん変わった感じがするかもしれません。

いずれにしても、Vol.1とありますように第2弾が出てくる予定ですし、こちらは作品の展開通り梶浦ファン期待の闇の部分が多くなると思います。さて、どう変化していくのか…と期待してしまいたくなるのです。

第113回 岩崎琢さん
(初出2005/04/13)

取り上げるサントラは、
焼きたて!!ジャぱん オリジナル・サウンドトラック(Aniplex SVWC7243)

たぶん、このアニメではあまり音楽を意識して聞こえてくることはないと思います。テーマとなる音楽がそれほど映像の中で表に出てくることなく、すんなりと入り込んでいることと、どこか別に似たような曲があることを感じる曲調であるからだと思います。

このどこかで似たような曲があるような…という部分は、以前に紹介したR.O.Dの最初(OVA)のサウンドトラックに近いものではないかと思います。それを意図しているのか、サントラの各楽曲のタイトルも元とした楽曲がなんとなく分かるようなものになっていますね。(ちなみに、サントラの楽曲タイトルはサントラCD制作時にあらためて付けるのが一般的)

刻み込むような危機感がある楽曲が最近の岩崎さんのサントラでは多かったんですが、今回はゆったりとしたリズムで旋律をスウィングさせるようにのせている感じのものと、リズミカルでもコミカルで明るい調子の楽曲がその多くを占めています。いかにも場面を説明しています、といったよくサントラではありがちなパターン化された曲はないし、まあよく(曲調などの)引き出しがたくさんあるものだと感心させられます。

「目指したのは、小さな子供達や大きな子供達に媚を売ることのない…
 そんな、子供と、そして大人のための音楽です。」

この作曲家の言葉に偽りなし、というサントラに仕上がっています。
 
 

第114回 折戸伸治さん、戸越まごめさん、麻枝准さん
(初出2005/04/13)

紹介するサウンドトラックは、
AIR オリジナル サウンドトラック (key Sounds Label KSLA-0004〜5)

いろんな意味合いで特異なサウンドトラックとなる事例だと思います。

まず、パソコン向けゲームとして制作されたサウンドトラックを、そのままTVアニメ化でも使われたという事例であること。実は、劇場版アニメとしては別個に音楽を制作していますし、この制作母体でKANONというゲームをTVアニメ化したときも、別の作曲家が改めてサントラを作っています。

ゲーム音楽ということで、多少でも生楽器を利用したりして作られるアニメサントラと違い、ほぼ全てがシンセサイザーで作られていて、完璧な打ち込み音楽であると言っていい作品であります。それゆえに、楽曲のアレンジや音のコントロールという部分では、かなり狙った精度を持って作られているという印象があります。

さらに、場面なり登場人物なりにあわせる楽曲そのものが比較的長めにできていて、曲の中での展開を複数も作り込まれているところは、映画のサントラや一種のイメージアルバムとしての楽曲作りに近いものを感じられます。

それだけかなり固まったイメージが作られている楽曲だけに、アニメ映像として新たにあわせるとするとなると、なかなか難しいものがあるなぁ…と思ったら、実際に使われている楽曲は思いの外少なかったりします。

それと、ここまで質が高まっているんだから、作曲家自身で実際に新たに楽器を使って取り直したらどれだけ深みのある楽曲になるんだろうとも思ったりもしました。

…と、ここまで書いていうのもなんなんですが、アニメージュ 2005年5月号 田中公平のアニメジュラン で、同じ意見が書かれていたんですねぇ。これが。そちらの方がもっと音楽的な部分も含めて詳しいので、これ以上私の方は書きませんね。

三氏のメロディが印象的な楽曲をDisc1で選んでみると、
折戸さんはTrack03 鳥の詩 戸越さんはTrack01 回想 麻枝さんはTrack04 夏影 印象に残りやすいメロディーを作り込んでそのものを高めていくという点では秀逸であるという印象はあります。
 
 
100 根岸貴幸 101 岩崎琢(R.O.D OVA) 102 佐橋俊彦 103 TRY FORCE 104 大島ミチル(鋼の錬金術師) 105 岩崎琢(R.O.D-THE TV))
106 千住明 107 大島ミチル(まっすぐにいこう。) 108 大島ミチル(花右京メイド隊 La Verite) 109 ダブルオーツ(安部純、武藤星児)DAVID MATTHEWS 110 林英哲、和田薫 111  渡辺俊幸
112 梶浦由記 113 岩崎琢(焼きたて!!ジャぱん) 114 折戸伸治さん、戸越まごめさん、麻枝准さん ページ最初へ ページの最後へ

 
 
 
 

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