<最初に>
近況ですが、買った枚数に紹介が追いついていないのが現状だったりします。
それでも、ぼちぼちと書いていこうと思いますが、最近利用される汎用性のあるアニメサントラが減ってきている気がします。
それよりも、楽曲の良さを述べる人も多くなっていますし、たくさんアニメ化される割に売れないこともあってサントラCDが発売されない作品もそこそこ出てきています。
音楽はその作り手も含めた多様性が、結果としてその質を上げていくことにつながるはずですが、それが売れないことを理由に失われてきているとしたら、寂しいことに思えます。
それと、
オープニングやエンディングアニメに使われる楽曲は、これまでに比べて売れる楽曲が多くなっていることで注目を集めているようです。
でも、それは楽曲そのものがきちんと聴けるものになっているからであって、アニメ作品の主題歌であるから売れているとはとても思えなかったりします。
TVドラマなどがこれまでやってきたことを、単にTVアニメが変わって行っているだけで、それほど明るい話に見えないのは、やはり偏りがある考えなのでしょうか。
これまで取り上げたサントラのTV番組での利用頻度は、下記URLを参照のこと。
http://sh-kato.cyber-hp.jp/cdf-00.htm
(初出 2005/07/16)
(初出 2005/07/16)
紹介するサウンドトラックは、
英國戀物語エマ オリジナルサウンドトラックアルバム
Silhouette of a Breeze (ポニーキャニオン PCCG-00679)
梁さんがサントラ楽曲として注目されたのは、いろいろな楽器を使って壮大な世界観を構成する音楽を作り出した「十二国記」ではないかと思います。楽曲としてのスケール感があり、いろいろな引き出しをお持ちの方だという印象がありましたが、映画のサントラに近い壮大だが作品世界だけでしっくりと使われるという楽曲だった印象があります。
「十二国記」オリジナルサウンドトラック1 十二幻夢組曲(ビクターエンタテインメント VICL-60891)
あくまでここで取り上げるのは”汎用性”があるサントラ楽曲を基本としているので、このときは楽曲の良さがあったんですが見送ったという経緯があります。
話をエマのサントラに戻しますが、
元々落ち着いた日常描写が多く、かつ台詞自体もあまり多くない作品のため、舞台となる背景映像とマッチした、ゆったりとした複数の大きなくくりなメロディの曲と、主となって印象に残るメロディを構築する必要があります。今回主となるメロディがかなりうまく作り込めたんじゃないでしょうか。
他の場面を演出するためのメロディは、引き出しが多いこともあってうまく作れているという感じですが、その水準が高いがゆえに素直に聞こえてしまい、印象にはなかなか残りにくい感じがします。その中で、リコーダーやギターをメインにたてた楽曲は、多層的にメロディを配している形になっているため、案外楽曲として印象に残りやすい感じがします。
主題曲となっているSilhouette of a Breezeは、たくさんのアレンジバージョンを作っていて、作品の場面に応じて適度に使われやすいようになっています。それでも、弦楽を中心としたものは聴き応えもあるし、たぶん十二国記から入った人にとっては梁さんらしい楽曲であると感じられるんじゃないかと思います。まず、19世紀末のイギリスが舞台ということで、きちんとしたリズムの中に落ち着いた印象を作るメロディを作り込んでいます。それが、1楽章・変調した感じの2楽章・メロディラインの若干異なる3楽章と実は短い中に複雑に構築していて、心地よいタイミングで並んでいて、飽きさせない感じになっていたりします。
(初出 2005/07/16)
紹介するサウンドトラックは、
ローゼンメイデン オリジナルサウンドトラック (Mellow Head LHCA-5003)
光宗さんは、ポップな印象の曲とその対極と感じられるクラシカルな印象の曲を、同じ作品の中にうまく取り入れていくことができる作曲家という印象があります。ベースとしてクラシックの楽曲の作り方ができていて、こちらの質が評価されることが多いのですが、むしろ自在にリズムや曲調を変えられるポップな曲の方が得意なんじゃないかと思うんです。
ちっちゃな雪使いシュガーでは、どちらかというとリズミカルな部分をクラシック的な曲調のものに集めた感じですが、ローゼンメイデンでは、ポップな曲とクラシックな曲を明確に分けて構築したという感じがあります。ただし、作品そのものが、上品に見える人形たちが主に繰り広げる話ですので、クラシックの楽器を主とした曲が多くなっています。
それにしても、今回の楽曲は弦楽器がたくさん登場しているなぁ。
今回のもので特徴的なのが、一つの楽曲でメロディが大きく2つ以上に分かれて変わっていくものが多いことでしょうか。Track16孤独な心 などはそれがわかりやすく出ている感じでしょうか。Track23
薔薇の呪縛 に至っては、何段にもわたって似た感じではあるがちょっとずつ変わったメロディが紡がれていて、聴き応えがあったりします。
(初出 2005/07/16)
紹介するサウンドトラックは、
ツバサ・クロニクル オリジナルサウンドトラック Future Soundscape I
(ビクターエンタテインメント VICL-61661)
最近ボーカルを多用したサントラというのはそう珍しくなくなっているんですが、TVアニメーション向けということで短めの楽曲として作られる例が多かったりするんです。ところが、梶浦さんと真下監督が組むと一般の歌つき楽曲並みの長さになっちゃうんですねぇ。そうなると、きちんとした楽曲として聞き入ってしまう作りの良さにつながっているようなんです。それは、よく考えてみると、TVアニメのサントラとしては贅沢な作り方をしなきゃらならないということも意味しているんです。
梶浦さんは、比較的いろいろな楽器を利用して楽曲を作る方なんですが、琴とか和太鼓はこれまで初めてだったとのこと。ただし、通常琴とか和太鼓を使った楽曲だと「犬夜叉」などのある程度楽器の印象に取り込まれた感じになるんですが、このサントラではそうはなっていないんです。むしろ日本以外の東洋の音楽といった雰囲気に近くなっています。琴の弦を変えたりしていることもあるんでしょうが、いい意味で作曲家の持つ属性をうまく反映して作られているのでしょう。
あと、このサウンドトラックで特徴的なのは、人物ごとに主となるメロディを構築していることから、作品そのものでの主となる印象的な楽曲は提示されておらす、たくさんのメロディを束ねて一つの楽曲群を構成しているというところでしょうか。出てくる世界も複数存在していることもあり、この場面に使われそうな曲といった感じのものもなく、どれでも使われそうな気がするというのは、ある程度の引き出しがある作曲家でないと難しい気がします。
それとは対照的に、
世界観をある程度一定にしつつ、きちんと場面や人物を想定した感じとなると、直近ではエレメンタルジェレイドのサントラがそれに当たるんじゃないでしょうか。こちらも、結構楽曲の質としては高いと思います。
エレメンタルジェレイド オリジナルサウンドトラック1 (ビクターエンタテインメント VICL-61617)
紹介するサントラは、
劇場版xxxHOLiC真夏ノ夜ノ夢 オリジナル・サウンドトラック(ポニーキャニオン
PCCG-000687)
斉藤さんの場合、ストリングスが印象的な楽曲を多く作っていますが、それとは対照的にパーカッションはあまり楽曲から聞こえてこなかったりするんです。打ち込み系などの比較的ポップな楽曲の場合は、パーカッションでリズムを刻むことが多く、クラシック系の場合は金管楽器でリズミカルな印象を与えることが多いんですが、クラシック系と思われる楽曲ですが、オーケストラに近い楽器編成でも、力強い部分よりもどちらかというとストリングスや木管楽器で流れる柔らかい印象のある楽曲提供が多かったりします。
そのことは、コミックスとして描かれる世界が重なる部分があるツバサ・クロニクルのサントラと比較すると、その違いが顕著になるかもしれません。
xxxHOLiCのサントラは、映画向けとしては楽曲が比較的短く、そのため流れる印象の楽曲にある展開がある時間で同じように感じられるといったこともなく、適度に場面のイメージがしやすくなっています。斉藤さんのサントラでは「朝霧の巫女」に近い感じになっていると言っていいでしょう。このため、比較的場面への汎用性のある楽曲となっているかと思います。
紹介するサントラは、
苺ましまろ オリジナルサウンドトラック(ジェネオンエンタテインメント
GNCA-1035)
小学生くらいの子供を描くアニメの音楽は、とかく作りにくいようです。自分か過去に子供だったときはどうだったっけ?と思いながら、作っているということをサントラCDの作曲家のライナーノーツのコメントでよく見かけます。
子供の頃というのは、あんまりたくさんの楽器を重ねてもよく聞き分けられていなかったりするからなぁ…ということもあるんでしょうが、案外心理描写がシンプルだったりすることもあって、楽器はそんなに多く使われなかったりします。この作品、ミュージシャンにはキーボード・ギター・アコーディオン・バイオリンしか載っていなかったりするんです。でも、きちんとサントラとして興味深いものになっていたりします。
何となく日常にある出来事を音楽にするのはなかなか難しく、雰囲気を音にするわけでして、主旋律で複数の異なる主題の旋律を並べて表情をつけるようなものと異なり、直感的な音を編み出すことが必要になってきます。
その主軸としてのメインテーマがくっきりとしたものとして作曲家が生み出せるかどうかがポイントになるのですが、この作品ではいい感じにそれが仕上がっていたりします。本編ではあまり使われていないんですが、text
commentaryで渡辺さんが述べているように、確かにこのメインテーマがあっての苺ましまろの音楽という感じになっています。あとは、実際にサントラCDを購入してtext
commentaryを眺めつつ、なるほどなぁ〜と思って聞いていただければよいかと思います。
紹介するサントラは、
だぁ!だぁ!だぁ! オリジナル・サウンドトラック(ビクターエンタテインメント
VICL-60596)
だぁ!だぁ!だぁ! オリジナル・サウンドトラック2(ビクターエンタテインメント
VICL-60739)
増田さんが蟲師の音楽を担当することで、蟲師のアニメ制作関係者やファンなどが書き込みができる「蟲師空間」にごちゃごちゃと書いたんですが、
http://www.kanshin.jp/mushishi/
そこでいろいろとチェックしていたら、このサントラについてあんまり語っていなかったことに気づき、改めて書いてみようかということになりました。
(過去には、こんな風に書いている)
http://sh-kato.cyber-hp.jp/cd-09.htm#cd057
基本的にポップな曲調でまとめています。この作品の監督の桜井さんと増田さんとの対談(サントラのブックレット収載)では、「フレンチポップ系」とかいっていてそのうち「パリの街角の音楽(ミュゼット)」に変わって…ということです。
楽器としてはアコースティックなものを主としていて、その中にSFの部分もあるんでシンセがアクセントとして組み入れた感じになっているんですが、このバランスが絶妙と言っていいですね。
普通サントラは汎用的に作って、後で台詞を含めた映像にあわせるんですけど、この作品はどちらが気を遣ってあわせているということではなく、不思議なくらい音楽と映像が作ったかのように合っているんです。きちんと時間を計ったようにあっているという意味ではなく、こういった場面ではこれくらいのある程度の幅を持ったテンポで乗せていくといったレベルで、微妙なバランスであっているんですね。
それゆえ、このサントラは今でも日本のTV番組のあちらこちらで使われること…
アニメそのものが好評だったこともあり、第2シリーズとなって新たにサントラが作られたわけですが、普通なら新たな設定に対応したものを加えていくといったものになるんです。ところが、また新しくメインテーマを仕立てて、これだけに別個の一つのアニメのサントラとして作られるくらいのものができていたりするんです。それでいて、第1シリーズのテイストをきちんと残して、一緒に使っても違和感がないようになっているというのに、感動しましたね。
どちらかというと、第2シリーズは落ち着いた感じで、しみじみといろんなことを思うシーンの曲が多く、メロディーをゆったりと動かしている感じでして、汎用性はちょっと欠けている曲が多かったかもしれません。
まあ、なんにせよ2000年及び2001年に発売されたこのサントラは、5年たった今でも作り手の想定を超えて、音楽著作物として活用されている事実があることを、ここで改めて語っておく必要があるかと思います。
紹介するサントラは、
焼きたて!!ジャぱん オリジナル・サウンドトラック2 (Aniplex SVWC 7292)
前作に続いて紹介する理由は、明らかに新章である部分での新たな音楽としての色合いでしっかりと作られているから。
もともと、他の映画音楽のいいところ取りっぽい曲調をふまえて作っていたんですが、いろいろな国が場面なり登場人物として登場するので、それに合わせた新たな楽曲が、これまた違和感なくつられているんですね。
もともとのメインテーマとなっている楽曲にも、アレンジバージョンがあって、それがあんまり違和感を感じることなく作り込まれているのも、岩崎さんらしいうまさなんでしょう。
どうしてもトーンが単調になりがちな、危機迫るシーン向けの曲はあまりなく、コミカルにストーリーに弾みをつける音楽が多くなっているんですが、これだけの楽曲を作り出すには、かなり引き出しがないと難しいんですね。その奥の深さを感じさせるような感じに仕上がっています。
まあ、元になってそうな曲がありそうに思えるんですが、たぶんかなりと違うようですし、それを感じながらでもおもしろく聞こえてくるんじゃないかと思います。
ただ、汎用性のあるサントラとしては評価できますが、サントラCDとしては実はあまり統一的なテーマが感じられにくいかもしれないなぁ…とも思いました。
紹介するサントラは、
絶対少年 Original Sound Track (Mellow Head LMCA-9001)
七瀬さんは比較的音源を少なめにしてメロディーを響かせる楽曲が多いんですが、今回の作品はかなり音の構成がシンプルになっています。作品自体が、日常の落ち着いた雰囲気の中、そこに息づいている目に見えにくい世界がふと出てきたという話であって、淡い雰囲気の中でも「感じさせる」ものがなければいけないというかなり難しい主題の表現をすることになったようです。
その難しい日常をコミにした世界の表現だからこそ、いろんな場面にす〜っと入り込んでいける音楽が作られていたような気がします。それは、一般的なファンタジーの世界の音楽は、どうしてもどこか違ったところで行われているような、日常の枠をはみ出してもかまわない部分が、この作品では描かれないからではないでしょうか。(ミトの大冒険とかスクラップドプリンセスなどは、そういった感じです。この作品は、ぴたテンに近いという気がします)
ブックレットの七瀬さんのコメントを引用すると、
普段と何も変わらない日常の中に潜む、目に見えない世界。ピュアな心を持つものだけが見える世界。そんな神秘的な世界を表現するために今回は、伊藤真澄さんのコーラスをフューチャリングさせていただきました。
---引用終わり
楽曲の音源が少なく、メロディを響かせることが主になっているだけあって、このコーラスがかなり印象的に感じられるように作られた楽曲となっております。どうしても、歌詞に意味性を感じてしまう最近のサントラ楽曲で、そのバランスを崩すものもいくつか出てしまう中、適切に構成されて作られているように思いました。
CDは2枚組となっており、DISC 1は田菜編 DISC 2は横浜編として構成されています。同じ世界観で作られた楽曲でありながら、表現する場面でやは色合いが異なるように感じられるという、かなり奥行きの広いまとまったテーマの音楽を感じられるのではないでしょうか。
紹介するサントラは、
かみちゅ! オリジナル・サウンドトラック (Aniplex SVWC 7291)
そもそも、こういった落ち着いたトーンの作品の曲というのはかなり凝って作られているんですが、それを感じさせないくらい心地よく流れてしまうので、購入してもらえない例が多いんですね。幸いなことに、アニメ作品自体ある程度ヒットしたので、きっとサントラも予想以上に売れているんじゃないかと思っております。(いや、ブックレットに池さんが自分で5枚ほど予約するなんて書いているし…)それくらい、サントラを作った人が手応えを感じて気に入っているのに限って、良すぎて売れないということが多いんだよなぁ。
そりゃともかく、
かみちゅ!の作品自体、結構ある場面をずっと見せながらゆったりとストーリーを進めている感じなので、音楽も一定の場を表現しつつ、それでありながらストーリーとともに動かしていく部分が必要なわけで、かなり凝った感じになっていたりします。1つの音楽の時間も、通常のTVアニメに比べて長いですし。(むしろ、劇場版の作りに近い)
さらに、音楽スタッフにオーケストラセッションとバンドセッションが表記しているくらい、普通はかなり色合いの違うはずの音楽を同居させて、同じ作品の世界観を表現するという相当凝ったことをやっていたりします。
作品の時代が1980年代になるんでしょう。そこでの落ち着いた日常を描いているはずですし、設定そのものは突拍子もないはずなんです。その微妙なバランスをうまく音楽にすると、それほどたくさんの音源を重ねることなく、ベースとして流れる旋律と展開して変わっていく旋律がうまくバランスして流れている感じがします。作品が持つ時代テイストを取り込みすぎると、もっと変化に欠ける感じで単調なものが作られそうなんですが、そこがうまくいっている気がします。
それと、池さんはこれまでダークな部分を表現することが多いアニメサントラが多かった印象があるんですが、このかみちゅ!のようなゆったりとしたトーンの作品に巡り会って、結構いい感じにし上がったことが分かっただけでも、良かったのではないかと思ったりもしました。作曲家と作品との相性がいい巡り合わせというのは、実はそうそうなかったりするものですから。
第123回 Choro Club・妹尾武さん
(初出 2005/11/23)
表記上はChoro Club feat. Senooとなっていますが、説明する都合このような表記としました。
紹介するサントラは、
ARIA The ANIMATION ORIJINAL SOUND TRACK (ビクターエンタテインメント
VICL-61795)
Choro Clubさんも妹尾武さんも、TVドラマや映画のサントラなども手がけられており、確かにいい感じのテイストの楽曲を提供されているんですが、なんか作品の世界観を表現するのにとらわれていて、いまいち「これ!」って感じの楽曲が少ない印象があるんです。ゆえに、す〜っと感じのいい曲が流れてしまっているというのか。
それゆえ、ARIAというアニメ作品が持つテイストがChoro Club feat. Senooとしてかなり自らの楽曲との親和性が高いんじゃないかと、期待していたんです。少なくとも、Choro Clubとしてはヨコハマ買い出し紀行でかなり評価の高い楽曲を提供してもらったという実績がありましたから。
たぶん、原作のコミックスを元にした楽曲製作という感じになっていて、実はアニメではかなり原作より複雑で、でもそれを感じさせないストーリー構成となっているはずですが、きちんと作られた楽曲が収まっているんですねぇ。これが。それは、急きょ発売が決まったということと、収録楽曲に与えられたタイトルとがかなり楽曲の持つイメージと一致していることからも分かります。
落ち着いたゆったりとした場面の表現を中心に、バンドリン・ギター・コントラバスが織りなす音楽は、Choro Club。他のストリングスやピアノで起伏のある展開は妹尾武さん。このような感じで、アレンジなどが割り当てられていて、きちんと一つの楽曲としての物語展開もあり、作品トータルとしての統一感も保たれていたりします。
もともとこの方々は、それほど音源をたくさん使う方ではなさそうですし、同じような旋律を1つの音楽では使い続けていくんですが、それらをうまく並べていって表情をふくらませたり展開を感じさせたりするんです。そのバランスが崩れると、単調に聞こえてくることが多かったりするんですが、その凝り方はかなりのものだと思いました。
ただ惜しむらくは、Track15のARIAでメロディ部分をボイスでスキャットさせて表現して、他の楽曲と比べてバランスを欠いている印象を与えたことでしょうか。メロディ部分はAQUA(Track04など)という楽曲とほぼ同じなんですが、もともとリズミカルに刻んでいく音源の方が周囲のゆったりとした音とバランスしていたんですが、ゆったりと伸びやかに表現する声をメロディ部分にしたためために、かなり違和感を感じられたもので。
紹介するサントラは、
「蟲師」オリジナルサウンドトラック 蟲音(むしのね) 前
(マーベラスエンターテイメント MJCD-20053)
今回この楽曲を作られた増田俊郎さんは、ブックレットのなかのコメントで、
「私は何もしませんでした。
それはつまり、意図的に何もしなかった…という意味ですが…。」
と述べられているように、作品を見ていくことによって楽曲がイメージされ紡ぎ出されてきたことを示しています。そのことだけで、映像作品のサントラとしては秀逸の出来となっていることを示しているといえます。
それでは、作品との親和性が高く、他の映像にもあわせにくいかというと、そうでもなかったりするんです。
もともと蟲師は一つの場面なり話の固まりが長めにできている作品ですので、場面にゆったりとその雰囲気を感じさせる音を長めの旋律で流し、かつ似ていながら少しずつ旋律の音階を上げ(または下げ)しつつ流していっております。
そして、ベースでゆったりと流れる音と、旋律を奏でる音が、それほど音源(楽器など)をたくさん使うことなく繰り出されております。
こういったかなりシンプルな旋律なり音源で構成される楽曲は、とかく似たイメージになる可能性があるんですが、そういったことになっていないんです。その違いは、作曲者のそれまで蓄えた引き出し(楽曲のバリエーション)の多さと直感的に選び出せるセンスに起因するのではないかと思うんです。
引き出しの多さについては、増田さんのこれまでの仕事を見ていただければ分かると思いますし、今回の蟲師はそれらをベースにしているはずなのですが、全くいずれにも近(ちか)しいものが感じられない。新たな楽曲の世界観を作り出したと言っていいと思います。
日本の多少古めの時期の世界観を音楽で出すとすると、日本古来の楽器かそれに類する音を選び、どうも旋律も含めて類型化する感じがあるんです。
それとは異なり、音源は比較的いろいろなものを使い、壮大ではないにしても単調にならない広がりのある旋律を重ねていっている。ゆえに、飽きずに聞き続けることができる楽曲に仕上がっていると思います。
その旋律や音の重なりの方で、むしろ多少古めの穏やかな世界観を演出しているのではないでしょうか。
サントラのブックレットについて、惜しむべくは、音楽制作に関わったスタッフの明記がプロデューサーを除くとほとんど書かれていないことです。打ち込みで作られているにしろ、もう少し関わっている人がいると思われるのに、それが明記されていないと思われるのが残念に思います。(蟲音 後で明記されることを期待しております。ひょっとして増田さんだけで作られたということもあるかもしれませんが)
紹介するサントラは、
びんちょうタン サウンドトラック(フロンティアワークス FCCM-0105)
アニメ作品としては15分・9話分しかないのですが、サントラの楽曲としては2分から3分の曲がそのほとんどを占めていたりします。(収載楽曲数は24です)曲が長めであるということは、1つの楽曲のなかでゆったりとその情景を表現していくという形になりますから、作品の尺の割にかなりぜいたくな楽曲の作りになります。(実際、ほとんどの楽曲がフルで作品中では使われちゃいないです。)
CDのたすき(タイトルやバーコードを表記するケースの外の紙の部分)に「キレイな音楽を聴きましょう。」とありますが、確かにその表記に偽(いつわ)りなしってところでしょうか。ストリングスや金管・木管楽器・ピアノなどでゆったりとメロディーが流れ、そこに必要に応じてシンセなどが寄り添うといった感じに仕上がっています。
こういったゆったりとしたトーンの楽曲では、これまでの岩崎作品では多少影が濃い雰囲気になりがちだったのですが、このびんちょうタンでは、それほど影がある感じには仕上がっていません。スタンダードなクラシックの曲調には、適度な明るさとともにある程度の上品ともいえる落ち着いた感じが演出されていたりします。
こういった落ち着いた楽曲だと、一般的によく語るサントラファンはあまり語ることがないようですが、実際映像に汎用であわせる楽曲としても、イージーリスニングとしても良質な作品の場合が多かったりします。ただし、いわゆる萌えキャラとされそうなびんちょうタンの絵がついているだけに、購入時にはそういった認識をされにくいだろうなぁ…とも思ったりします。(2006/4/9日本経済新聞 中外時評にもびんちょうタンの名前が擬人化の例として登場していたし)
第127回 Choro Club・妹尾武さん
(初出 2006/06/16)
紹介するサントラは、
ARIA The NATURAL ORIGINAL SOUND TRACK due (ビクターエンタテインメント
VICL-61935)
前作からかなり早く次のシリーズが始まったARIAですが、それにもましてこのサントラの発売もかなり早く、放送開始2ヶ月目ですからね。さらに、発売数日でTV番組に収録曲が利用されていたことからも、相当前評判も高く、かつその評判に違わぬ作品となったようです。
前作は、比較的表現する場面や情景をたくさん取り上げるため、緩急交えた多様な曲調のものが多く、サントラ楽曲という印象もある程度ありました。今回は、比較的落ち着いた聴かせる楽曲でして、インストゥルメント曲のテーマをつけたアルバムといってもいいくらい、一つ一つの楽曲がある程度の複数の場面に変わりながら物語を表現しているものが多いです。前作のアレンジ曲も、メロディラインは確かに同じようなのですが、ずいぶん雰囲気を変えた編曲ものとなっていたりします。
たぶんジャケットを見せずにChoro Clubのアルバムとか妹尾武のアルバムといっても、納得されるくらい。ただし、ARIAを知っている方が聴くと、ARIAのサントラ楽曲だと分かるくらい、その世界観を示すメロディラインがくっきりとあったりすると言っていいでしょう。(The Animation Track-5 夏便り など)
前回も書いたように、落ち着いたゆったりとした場面の表現を中心に、バンドリン・ギター・コントラバスが織りなす音楽は、Choro Club。他のストリングスやピアノで起伏のある展開は妹尾武 ということは変わりないようです。ただ、同じ人による楽曲の場合楽器や選択する曲調をそれほど変えない場合、どうしても似た雰囲気のアレンジに収まってしまうのですが、この作品に関しては、そういったことが無く、異なる雰囲気の曲という印象を与えてくれます。また、前作よりもやや楽曲の長さは短めになっているのですが、それを感じさせないゆったりとしたリズムにより楽曲ごとに一つのおおくくりの場面を表現しているようです。
確か、この最初のサントラのたすき(フィルム開封後に分離できる紙の部分)には「泣きたくなるほど、幸福な音楽」というキャッチが書かれていました。実際そう思えるほどの楽曲でありましたし、たびたびいろんなTV番組でも聞こえてきまして、泣きたくなるほど別の映像が脳裏に出てくることも多かったように思えたのでありました。
紹介するサントラは、
桜蘭高校ホスト部 サントラ&キャラソン集≪前編≫(VAP VPCG-84841)
桜蘭高校ホスト部 サントラ&キャラソン集≪後編≫(VAP VPCG-84842)
サントラでよく言われるオーケストラの楽曲というのは、かなり多く聴かれるのですが、映像に合わせるということでどうも映像に寄り添った感じで起伏がつけられる例が多かったりします。確かに、第1主題・第2主題といった大きく変えた旋律と、それをつないでいく変調などによる変化をしているのですが、楽曲全体の調和をふまえるというより、時間の到達で変化しているというのか、どこか似たり寄ったりという感じがするんです。
平野さんのサントラは、どちらかというとスタンダードなクラシックの楽曲にその主題の並べ方は近く、それでもサントラとして楽曲が短めであるということをふまえて作られているという印象があります。それは、サントラでクラシックに近い楽曲というと、合わせる映像のカット割り(時間)に合わせて作るために主題の旋律や楽器がちょっと少なかったり、いろいろ詰め込もうとして必要以上に密度が濃かったりするんですが、そういった雰囲気が楽曲からは感じられないんです。普通オーケストラ向けとされる交響曲として作る実力もあるけど、サントラとしては協奏曲程度のバランスで楽器なり楽曲の長さを作り込んでいて、これがまた心地いいんです。
そういった協奏曲として楽曲の楽しみを凝縮したようなのが、桜蘭高校ホスト部のサントラなのではないでしょうか。それにしても、いろんなクラシックの楽曲の手法を持ち込んでいるなぁ…(楽曲名を見ると、そのことがある程度分かりますので、興味がある方はCDを買って確認してみてください)
このアニメ作品自体、映像自体まず現実とは思えないお金持ちの子女たちの世界観を表現しています。それゆえ、音楽もその雰囲気をきちんとサポートするように流れるように普段ならそんなに聞こえることのない、スタンダードなクラシックな楽曲と認識されるような楽曲に仕上がっていたりします。ただ、音楽なだけに結構オーバーな雰囲気のもあったりするわけで…後編 Track8 Theme for the "Zuka-bu" for orchestra はアニメ作品を見た方ならそう思えるんじゃないかと思いますが。
紹介するサントラは、
『あさっての方向。』Original Sound Track "truth" (Lantis LACA-5598)
ちっちゃな雪使いシュガーでのメロディアスなピアノ曲が個人的に気に入っていただけに、クラシックを基調としたサントラだけでなく、ピアノ曲を全面に取り入れたサントラが出たらさぞ興味深いものに…という希望が、このサントラでかなったというところでしょうか。
作曲したご本人が、ピアノ曲ばかりになりましたというくらい、たぶんピアノ曲のアルバムといっても納得できるようなラインナップに仕上がるんじゃないかと思います。
快活でリズミカルな「ちっちゃな雪使いシュガー」や上品である種のテンションをもった「ローゼンメイデン」と異なり、日常的な状況の中で起こってくる日常と違った出来事を描く「あさっての方向。」。この作品では、音階の広がりはあるものの特定の楽器である種の枠をもって映像にすーっと流れていくことを望まれていたようです。ピアノ曲としてのARIAと比較すると、メロディに重なる音が少ないことでよりメロディに寄り添っている印象が強いです。
ピアノ曲主体のサントラといえば、服部隆之さんの「陸上防衛隊まおちゃん」というのがありますが、こちらはリズミカルに場面を表現するという感じで、メロディを響かせていくという感じではありませんでした。
ピアノ曲がクラシックを基調としたものではあるが、ピアノ曲以外のサントラは場面表現を明確にしたポップなものも作っており、これはこれまでの光宗さんの楽曲らしくなっています。
あと、実際にサントラが出たときに、もうちょっと書き加えたものにしたいと思っております。
(2007/01/24 追記分)
光宗信吉が奏でるニューエイジ・ミュージック・サウンド
CDのタスキに書かれたこの文章が、このサントラのコンセプトを指し示していると言っていいでしょう。ただし、素直にニューエイジミュージックではなく、光宗さんらしい別のニュアンスを織り込んでいますし、それはブックレットの方にも書かれていました。
作品中によく使われた旋律を集めた 組曲「あさっての方向。」をTrack1にもってくるところが、まず心憎い楽曲の構成だったりします。(他の作品でも類似のことをやっていますが、テーマ曲のアレンジか序曲っぽい新たに作った雰囲気を感じるものが多いもので)
作品中ではカット割りでどうしても短めに使われることが多く、フルで聴いてみたかった楽曲がきちんと収録されています。それに加えて、バリエーションに富んだアレンジ曲がこれまたたくさんあること…ARIAのサントラでもそういった楽曲が思いの外多かったことを書いていた方がおりましたが、アレンジ曲を別に作ったように感じさせる編曲の力というのを、改めてこのサントラで感じたのであります。
作品の描いている季節は「夏」そこで「ぴーんと張りつめた空気感」とか、主人公の一人である からだ の「ピュア」な部分を音楽としてどう織り込んでいくか、というのがどうもアニメ制作側から提示されていたようです。
そのコンセプトは、ある意味、光宗さんのこれまでやった作品とは方向性の異なっていたのではないかと思います。
癒し系とは似て非なる、ただやさしく心地いいだけではない、きちんと表現すべき主題をもった楽曲は、実はニューエイジミュージックと称される楽曲群でも結構あります。
(個人的に好きな、西村由紀江さんとか村松健さんのピアノ曲などが当たると思う)
そういったアルバムに近いものとなると思っていたら、その期待以上のものが提供されたと思いました。
CDのブックレットの光宗さんのコメントによると、かなり絞り込まれたサウンドの幅の中で作られたとのことです。
こういった楽曲はサントラとしては他の映像場面でもその親和性が高いのは、これまでも類似の例があるだけに、いろいろなところでこの楽曲が聞こえてくることを期待してしまいたくなります。
紹介するサントラは、
バーテンダー オリジナル・サウンド・トラック (Defstar DFCL 1321)
作品の舞台に流れる楽曲としては、ジャズなどの少ない楽器でゆったりと流れるものというリクエストが来そうだと思ったら、その通りのものが提供されたということでしょうか。大嶽さんがこれまで作ってきた楽曲のテイストそのままで、物語となる場面をそれぞれ作り込んできたという感じがします。
アニメの楽曲でよくありがちな、主題となる旋律をアレンジするという手法はとられておらず、きちんと場面毎に楽曲が作られています。ただ、過去にジャズっぽい楽曲やピアノなどの少ない楽器で構成された楽曲と、それほど旋律としての違いが感じにくいのは、まず場面をきちんと表現しようということで作られたからなのではないかと思われます。
それでも、作品ではきちんと場面を映像に邪魔することなく演出するように聞こえていますし、主題歌(op,ed)ではきちんと大嶽さんらしい旋律と思われる特徴的な楽曲となっています。アルバムとして聴き込んでみるとなかなかですが、場面と組み合わされた形だと標準的な感じでちょっと曲が浮かびにくいかもしれません。
紹介するサントラは、
ゼロゼロナインワン オリジナル・サウンドトラック (Aniplex SVWC 7423)
今回のサントラは、弦楽でゆったりと場面がすすんでいくのを表現し、トランペットや打楽器でポップでリズミカルな場面変化を表現するという、ちょっと昔の映画音楽としてはオーソドックスな手法をあえて取り入れ表現しています。これは、R.O.Dで比較的使われた手法で、009-1という作品がもつテイストにフィットしているといいと思います。
しかし、曲調はどこかで似たような感じではあるにもかかわらず、旋律はきちんと異なったものになっているんです。それは、ほんの少し変調したり、タイミングをずらしたり、といったいわれなければ気づきにくい部分の場合が多かったりします。そのちょっとした違いが、明確な違いとして感じられるように、編曲によって曲全体を構成するところが、岩崎さんらしさという部分だったりするんです。このため、他の作曲家さんのような特徴的な旋律のようなものは、なかなか提示しにくいように思えたりするんです。
だからといって、同じような旋律をシンプルに重ねて、その重ねをずらすといったものでもないわけでして…それゆえ、他の楽曲と似たような曲調でも対応できるといった自由度をもっているのかもしれません。
それにしても、アニメ作品としてはその作品の話題性のわりにいまいちだった009-1ですが、サントラに限っていうと、まあ良くいろんな番組で使われること…これまでの作品の実績としっかり重ね合った、汎用性のある楽曲を、今回も提供したというところでしょうか。
取り上げるサントラは、
銀盤カレイドスコープ オリジナル・サウンドトラック(Aniplex SVWC 7435)
亀山さんのこれまでのサントラ作品は、無難に作品により沿った感じがあって、案外印象には残りにくいというものだったりします。ただ、ボボボーボ・ボーボボのようにコミカルでポップな感じのものもうまく作れているし、ポポロクロイスのようにきちんとバランス良く旋律を響かせることもできているわけで、曲自体のテーマ性がある楽曲でも、興味深いものが出てくるんじゃないかと思っていたのでした。
そういった、これまでの個別のサントラでバラバラに発揮していた能力を、うまくまとめた形でできたのが、銀盤カレイドスコープだったんではないかと思います。作品中に使われる音楽が、クラシックよりの演技の場面で使われるものとなるので、そういった楽曲に違和感なく合うスタンダードといえるものが当然中心となります。そういったものでも、作品のサントラらしいと感じられる旋律を組み合わせております。また、主人公たちのある意味表情豊かな部分をポップな曲調で、だからといって突拍子のないズレを感じさせることなく、表現しています。ただ、キャッチィなテーマとなる旋律を作り出せていないので、すーっと流れてしまい、いい感じに作られたサントラ音楽に収まってしまったのが、もったいないという感じだったりします。また、前半に多く収録されている落ち着いたクラシック基調の楽曲より、後半のポップな曲調の方が作品中では多用されていたようですから、もう少しポップなものを前面に出した方が興味深いものになったのではないかと思います。
さらにいうと、このアニメが2006年1-3月の放映だったにもかかわらず、サントラ発売が2006年12月というかなり遅れたものだったのです。使われた映像とともに売り込めなかったということで、いろいろな事情があるにしてもタイミングを逸したという感じがして仕方がないです。
紹介するサントラは、
時をかける少女 Original Sound Track (ポニーキャニオン PCCR-00434)
シンセサイザーを活用した音楽で、テレビ番組やCMなどの音楽では結構活躍しておられる吉田潔さん。直近ではNHKの「日本人はるかな旅」のサントラで、スケール感がありながらすっきりとした旋律の音楽を提供していたことが、私としては印象に残っています。
アニメーションでは一般に、弦楽器とピアノを主としてシンセサイザーで複数の音源をカバーするという手法で作られた音楽がよく使われるように思われます。しかし、実際はシンセサイザーによる音源がポイントになったり主旋律を奏でることが多く、結果として場面によって似通った感じの曲になることが多かったりします。TV番組やCMの音楽では、むしろ同じ旋律をシンセサイザーで重ねつつ、転調したり別のテーマの旋律を組み合わせて、リズミカルな雰囲気を構築していきます。この作品では、Track 2 スケッチ Track 6 スケッチ(ロング・バージョン)が、そういった楽曲になるかと思います。
そのほか、協奏曲のアレンジバージョンや弦楽器とピアノを主とした協奏曲っぽい感じの楽曲で構成されておりますが、(作品を見たわけではないので推測ですが)映画のカット割りを考慮して音楽を作ったというより、場面に寄り添うように流れていく楽曲といった感じのもので仕上がっているという印象を受けました。
また、テーマ曲となる夏空(オープニングとエンディングなど複数のバージョンあり)は、吉田さんが持つスケール感のある伸びやかが感じで、夏の青い空をイメージさせるに十分なシンセと弦楽をうまく組み合わせたものに仕上がっています。
映画向けのアニメサントラとしては、実は楽曲の数もその収録時間も少ないのです。これは、たぶん映像化で必要とされる楽曲をきちんと絞って、これらの楽曲を聴くと一つの統一した作品のイメージができているサントラなのでしょう。もともと、当初の公開スクリーンもかなり絞って、いろいろな意味で最適化した形で作られたアニメ映画だけあって、音楽もそういったことを反映したものになっているようであります。それは、夏を場面としてイメージされた楽曲だけあって、そのイメージに近い場面では利用されやすいということを示しているかもしれません。
紹介するサントラは、
のだめカンタービレ オリジナル・サウンドトラック(EPICレコード ESCL 2938)
松谷さんのサントラといえば、どうしてもピアノを主としたゆったりとした楽曲が際立っている印象が強いんじゃないかと思います。確かに、この「のだめカンタービレ」のサントラでも、そういった楽曲がありますが、それよりもクラシックの楽曲のアレンジとかキャラクターなどをイメージしたかなりコミカルな印象の強い楽曲が多くを占めていたりします。
松谷さんは、シンセサイザーによる楽曲制作からスタートしていることもあり、クラシックなど演奏家によるのりしろが大きい楽曲というより、キーボードを主とした作曲家によるコントロールが利いた楽曲になっている印象を受けます。それゆえ、主旋律に合わせて奏でる音源の属性から選んでいるということになっているようです。それが分かりやすく出ている例として、Track16木管のための「絶望」とTrack17ピアノのための「希望」を比較していただければよいのではないかと。
さらに印象的なのは、ポップに響かせて楽曲を作り上げているTrack1 OvertureとかTrack5先輩に会いたい!Track18ギャポー舞曲 などで、短めの楽曲で印象に残る旋律を組み込んで、似たような印象になりがちな場面表現の音楽を、そう感じさせないものとして作られていたりします。これは、もともと打ち込み中心で作られた、当初松谷さんが作られていた楽曲に近いものであることが、彼のアルバムなどを聴くと分かったりします。
「のだめカンタービレ」という作品は、TVドラマでもサントラが出ていまして、そちらは服部隆之さんが音楽を担当しています。どうしても、ドラマでは作中演奏されるクラシック以外の場面表現で音楽を使うのは少なくなってしまうことから、それほど特徴的な楽曲となっていなかったりします。
そういったドラマとアニメという違いといった部分の他、松谷さんのサントラでは打ち込みで作られたということで、クラシック楽曲のアレンジ曲も作られ、これがオリジナル曲のような印象を受けるようなものになっていたりします。そういった作り手の表現としての自由度の高いものとなっていることもあって、特徴を感じやすく興味深いサントラとして仕上がったということになったようです。
紹介するサントラは、
電脳コイル サントラ音楽集(徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-73185)
5月開始のアニメで、5月にすでにサントラが発売されているということは、かなり異例なはず。それだけ、しっかりと音楽が作られた状態から作品が作られているということになっているはず。
斉藤さんの作品で評価が高いのは、「蒼穹のファフナー」や直近だと「劇場版XXXHOLiC」になると思いますが、室内楽など多少重い感じのものは、案外作品に寄り沿っていて使いづらいという感じでしょうか。だからといって、派手な感じのものは斉藤さんの得意な旋律を軽みに感じさせてしっかりと伝えていくという部分を減少させるようで、あまり私としては、好ましいものになっていない感じです。そういったところから、バランスよくできたという感じがしているのは、霧のなかの落ち着いた雰囲気と学園での出来事を代表する青い空のようにスッキリと感じさせるものが重なった、「朝霧の巫女」がではないかと、思っていたりします。実際、今書いている途中見ていたある旅番組でも使われていたりしていますし。(そりゃ、鬼気迫るテンションの高い楽曲もありますが)
「夕焼けの美しさと寂しい感じ」が、この作品でのキーワードとのこと。ストリングスを中心に、クラシックをベースにした楽曲が並んでいます。劇場版 xxHOLiCのような室内楽の楽器編成でありながら、楽器数は少なめに、重くならない、でも軽くならないというかなり微妙な、雰囲気をつけていくという劇判音楽に徹した作りになっています。ただ、場面描写の旋律として、どうしても朝霧の巫女に似たような楽曲がいくつかあるのですが…これは、同じ作曲家ということで、許容できる範囲ではないかと思います。
この作品が音楽的に凝っている点としては、確か直近では「かみちゅ!」でも行われたように、楽器ごとにトラックを分けたものも納品してあり、場面によって楽器の数を減らすといったことができるようにしていること。音楽制作では手間がかかるのですが、より音楽を映像に対して適切に使うためにはいい形であります。
かなり無理をすれば1枚でも入る時間容量ですが、音楽としてしっかり聴けるように、さらにシリーズ後半付け加わるにもかかわらず、あえて2枚組のサントラとして発売されています。それは、直近で取り上げた「あさっての方向。」のように、使われなかったが作品を形成する音楽として作られたものをしっかりと収録して、聴いてもらおうという意識が感じられます。それは、最近のサントラにありがちなキャラクターソングカップリングしたり、DVDの特典として載るのではない、音楽として完成形でありながら、しっかりと作品に寄り添っている立ち位置を表明しているようにも、思えたのであります。
紹介するサントラは、
「ハヤテのごとく!」オリジナル・サウンドトラック 1(Geneon GNCA-1123)
中川さんを取り上げるのは、これが初めてだったのかと思うのが意外な感じだったりします。「プラテネス」「スクライド」「ガン×ソード」「コードギアス」など、結構注目すべき作品で音楽担当をされているからだったのかもしれません。
楽曲としてはクラシックをベースにした比較的スケール感のある楽曲が多く、比較的楽器を複数重ねることが多かったような気がします。そういったものでは、印象深い旋律となるテーマ曲は比較的印象に残るのですが、楽曲の映像への汎用性という部分はちょっと厳しいといったことになるようです。
「ハヤテのごとく!」では、最初に日常風景物から手をつけていったこともあり、メリハリのついた旋律よりもアレンジで印象をつけていく楽曲が多くなっていたりします。こういった場合、案外旋律の方は似たような印象のものが多く(パクリっぽく聞こえるでしょうねぇ)、でも作曲される方が持つ編曲のバリエーションが色濃く出るものです。それゆえ、自分の得意なテイストの曲調はあえて手を出さないことも多いようです。逆に、後回しにしたキャラクターイメージの曲で、バリエーションとして不足していた感じの雰囲気を加えるために、得意なテイストのものを使うことにつながったようです。ジャズっぽいものは、楽曲としては評価されるんですが、映像とあわせるということになると、結構似たような印象になりやすいです。こういった楽曲作りの経緯が、結果としてそれを回避することができたような気がします。
よく考えてみると、結構ゴージャスな場面での出来事が多い話なんですねぇ。そういった場面はクラシカルな感じのものを安定してつけ、キャラクターによるイメージを強くした出来事の場面では、徹底してコミカルに感じられるようにベタなアレンジをあえて選んでいます。それでも、使われている楽器(音源)はこれまでのアニメ作品と比べて少なめに感じられ、よりシンプルに、意図としている楽曲のアレンジが引き立つようにできあがったのではないかと思います。
紹介するサントラは、
サウンドスケッチブック (JVCエンタテインメント VTCL-60005)
村松健さんは、TV-CMなどでたぶん結構多くの方が聞いたことがあるピアノ楽曲を主として発表している方です。JR東日本のCMでは「春の野を行く」、アフラックの現在放映中のCMでは「光のワルツ」、天気予報でよく使われる「グリーン・シャワー」と「出逢いと別れ」…と、馴染みの心地よい音楽が多くあるはずです。ソニーミュージックで結構多くの楽曲を発表しており、その後アルファ、ビクター、コロンビアとレコード会社を移籍し、現在はKeenMoon レーベルを立ち上げて、楽曲発表しております。
ピアノ曲というと、広い音域を表現できることもあって、どちらかというとその元となるクラシック的なスッキリとしており、かつ比較的リズミカルな感じなものが多かったりします。村松さんの曲は、そういったところから離れて、日本のわらべ歌や島唄といったものやジャズといったものも取り入れた、自在な旋律が響きあっているような感じです。今年、ソニーミュージックからでたベストアルバム(といっても新録も多いですが)「森と海のあいだ」(ソニーミュージックダイレクト MHCL 1094〜5)というタイトルが示すように、森とか海といった自然の風景の中にあるものを自分なりに表現していった感じがします。リズミカルであるが、ゆったりとスウィングさせるように、旋律をきちんと響かせながら聴かせていく。そんな感じであるので、発表された楽曲の多くは5分から7分といった長めのものが多くを占めます。
このサントラの以前にも一度独立U局でご自身も出演している街道を旅する番組のサントラを作っております。そのときに、すでに短めの楽曲も作っているのですが、今回は20曲近くの短いバリエーションのある楽曲を作るという、ある意味トライアルなものだったようです。このために、自らのレーベルからのアルバム制作は先送りになりましたが、それ以上に得るものが多かったようです。
スケッチブックという作品は、福岡の田園風景の残る高校を舞台にした、ほんわかとした雰囲気を表現するというもの。日常にある何気ないことをピックアップして、その出来事を表現するということで、音楽はその場面に寄り添うようにゆったりと流れていくといった感じが求められたようです。それは、下記に示すサントラのたすきに書かれたキャッチにも示されています。
いつか見た青空、風が運んできた懐かしい草の匂い。飾り気のない素朴なピアノの響きが、忘れかけていた大切な想いの糸をたぐり寄せてくれる、最高にノスタルジックなアルバム
実際はピアノだけの楽曲は数曲だけで、一部のストリングやドラムを除き、村松さん自身が演奏したものとなっております。ソニーやアルファなどで発表した頃を知っている人にとっては、あの頃の楽曲の雰囲気を再現していると思うはず、と村松さん自身もおっしゃっていましたが、実際聞いてみるとそういったスウィートなナンバーも入っていて、嬉しかったですね。三線やウクレレを使ったもの、ピアノとパーカッションとストリングスが絡み合ったものなど、クラシック的なものや打ち込み系とは違った雰囲気が感じられるはずです。
村松さん自身のサイトに、作品のライナーノーツのようなものが書かれていますので、そちらも探して見てください。
http://www.ken-muramatsu.com/
本題とは関係ありませんが、ビクターエンタテインメントのアニメレーベルはJVCエンタテインメントに移管され、これを機にflyingDOGレーベルを立ち上げた。このため、レコード会社の表記が変わっています。このため、坂本真綾さんや牧野由依さんの直近発売のシングルCDなども、この表記になっています。
紹介するサントラは、
「ひだまりスケッチ」オリジナルサウンドトラック(Lantis LACA-5631)
菊谷和樹さんは、歌詞付きの歌の方が楽曲提供多い方で、アニメサントラは最近いくつかつくられている感じのようです。劇的な場面の変化をする一般的なサントラ楽曲ではなく、少ない楽器でメロディーを流していくといった感じでして、かつスキャットなどメロディーを口ずさめそうなくらいのゆったりとした感じのもののためか、比較的楽曲それぞれの印象は薄い感じがします。
幸い、ひだまりスケッチという作品は、ある程度コミカルに場面を変化させて表現するところもあり、サントラとして表情をつけなければならない場面の数が多かったりします。このため、個々の楽曲の印象が薄くても、まとめた形では一つの作品世界を表す雰囲気を形成しやすくなっています。
日常的な雰囲気を表すためのサントラとしては、個々の楽曲が強くイメージされるのは、映像に当てはめる場合やっかいになることが多かったりします。そういった部分がないことに加え、一般的にサントラにありがちな凝ったメロディーがつけられていないこともあり、ちょっと違った印象をつけやすくなっていたりします。
さらに、もともとアレンジャーとしての実績もあり、表現すべき場面にあわせた楽器の選択も、かなりセンス良くできているんじゃないかと思います。また、キャラクターをイメージしたサントラが作られなかったことも、汎用性のあるサントラとしてはいい方向に作用したのではないかと思います。
今回取り上げるサントラは、
さよなら絶望先生 オリジナルサウンドトラック「絶望劇判撰集」(キング
KICA 888)
普通のサウンドトラックなら、ここまで統一した編曲方針でつっきることはないでしょう。ひたすら「耽美」でくくったと、音響監督の亀山さんが述べておりますが、ここまでやっちゃうのはすごいというのかなんというのか…ゆったりとしてリズム進行に、ぜいたくに楽器を使いまくって楽曲作りをしているのが明確に感じられます。楽器をたくさん使っているという意味ではなく、通常のアニメサントラで使われる以上の、という意味ですが。
メインテーマとなっている楽曲自体、かなり輪郭のはっきりした感じですし、それらをアレンジした楽曲もしっかりとイメージが変わったように感じられるようになっているのは、これまでの長谷川さんの実績からも当然というところでしょうか。それよりも、「それいけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」でこの作品の新房監督と仕事をしたことから、かなりの自由度をもたせてもらって音楽を作らせてもらい、かなりの思い込みの中でのびのびと音楽を作ったことが功を奏しているようです。結構ある別の楽曲の雰囲気が入っているものもあるんですが、見事に一つのコンセプトの中にかみ砕かれて楽曲が作られているなぁ…と感心しきりだったりします。それも「耽美」という普通ここまで明確にコンセプトとしないテーマで。ただし、結構声も多用されているはずなのですが、そちらでは評価されないかも。作品コンセプトから当然の手法と思われてしまうからねぇ。
なぜ耽美かというと、この作品自体ちょっと古い昭和前期っぽい町並みや学校(主人公もか)で、でもそこで挙げるのは今の世のセコや貧しさでして、舞台背景同様に今をあんまり感じさせないようにする道具として、活用する必要があったからのようです。それゆえ、この音楽にいろんな映像を重ね合わせると、別のイメージの印象を与えていけるのかもしれません。
こんなものも作っております
2012 TV アニメ サントラ選
2011 TV アニメ サントラ選
2010 TV アニメ サントラ選
2009 TV アニメ サントラ選
2008 TV アニメ サントラ選
2007 TV アニメ サントラ選
2006 TV アニメ サントラ選
2005 TV アニメ サントラ選
2004 TV アニメ サントラ選
2003 TV アニメ サントラ選
2002 TV アニメ サントラ選
2001 TV アニメ サントラ選
2000 TV アニメ サントラ選
1999 TV アニメ サントラ選